サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ユールシンギング
【2013年 セントライト記念】台風一過のターフに高らかと響く祝歌
社台サラブレッドクラブに総額3000万円で募集されたユールシンギング。母ジョリーノエル(その父スペシャルウィーク、4勝)、祖母クリスマスツリー(ターコイズS)、曽祖母オークツリー(福島記念、ペインテドブラックの母)に連なる活力にあふれるファミリーの出身。母の名ノエル(クリスマスキャロル)より連想され、ユールシンギング(家々や果樹園を訪ねてキャロルを歌うこと)と命名された。
サクセスブロッケン(ジャパンダートダービー、フェブラリーS)、ストロングリターン(安田記念)、アルフレード(朝日杯FS)、エピファネイア(菊花賞、ジャパンC)、ルヴァンスレーヴ(全日本2歳優駿、ジャパンダートダービー、南部杯、チャンピオンズC)など、多彩な一流馬を送ったシンボリクリスエスの産駒である。化骨が遅く、慎重にステップを踏んだなかでも、父譲りの立派な馬格を誇り、社台ファームの育成当時でもパワフルな動きが評価されていた。
3歳1月、東京の芝1800m(3着)でデビュー。当時は身のこなしに緩さが目立ち、初勝利をつかんだのは4戦目(5月の東京、芝1800m)だったが、順当に調教の反応も上向き、気性の若さも解消されていった。八丈島特別を2着に善戦したうえ、続く新潟の500万下(芝1800m)も突破する。
中1週でセントライト記念へ。中団の外目で折り合いに専念したが、勝負どころでは馬群が凝縮して窮屈なポジションに押し込まれる。それでも、直線で進路が開けると、一気の末脚を駆使。2着のダービーフィズをハナ差だけ捕らえ、みごとに重賞制覇を成し遂げた。
「きょうは馬の能力に助けられました。4コーナーで前を締められて厳しいパターンだったのに、エンジンがかかってからの伸びはすごかった。良に回復したとはいえ、台風の影響(同年は翌日に代替競馬として施行)が残った芝。よく克服してくれましたよ。やんちゃ盛りで、ゲート裏でも心ここにあらずの感じ。まだまだ良くなります」
と、騎乗した北村宏司騎手は声を弾ませた。
過酷な不良馬場が堪え、菊花賞は15着。リフレッシュ後、出遅れを繰り返すようになったものの、翌春の新潟大賞典では豪快な差し切りを決めた。だが、これが最後の輝き。乗り難しさを増し、6歳時の大阪城S(14着)まで9連敗を喫する。左前の種子骨靭帯に炎症を発症したのに加え、球節部分にも骨折が認められ、引退が決まった。
新潟競馬場の乗馬となり、幸せに余生を送っているユールシンギング。当場での栄光だけでなく、夏のローカルが終了して中山開催がスタートすれば、台風一過のターフで演じた鮮やかな逆転劇が蘇ってくる。いつまでも元気でいてほしい。