サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ネオユニヴァース

【2003年 日本ダービー】新世界との距離を縮めた運命的な出会い

 2歳11月に京都(芝1400m)で新馬勝ちを収めたネオユニヴァース。中京2歳Sはもたれる若さを見せ、3着に敗れたものの、白梅賞を順当に差し切り。きさらぎ賞へと駒を進めた。好位を手応え良く追走すると、4コーナーで外に振られながら息長く末脚を駆使。後続の追撃を完封する。手綱を取った福永祐一騎手も、底知れない可能性を感じ取っていた。

「これから成長する段階だけれど、直前の追い切りに跨り、重賞でもやれると自信を深めたね。ある程度前でも折り合え、センスがいい。ラストまで余力があったよ」

 日本競馬を一変させたサンデーサイレンスが父。この世代は特に豊作で、同期にスティルインラブ(牝馬3冠)、アドマイヤグルーヴ(エリザベス女王杯2回)、ゼンノロブロイ(天皇賞・秋、ジャパンC、有馬記念)などのトップホースが居並ぶ。母はイギリス産のポインテッドパス(その父クリス)。同馬の半姉に仏G3・カルヴァドス賞に勝ったフェアリーパスがいる。

 抜群の末脚を駆使し、スプリングSも完勝。ここで初コンビを組んだのが短期免許で来日中のミルコ・デムーロ騎手だった。ジョッキーにとっても、その後の人生を左右する貴重な一戦となる。皐月賞はアタマ差の辛勝だったものの、窮屈なポジションからの逆転劇。直線での爆発力は、他を圧倒するものがあった。

 ダービーでも抜群の勝負根性を発揮した。後方待機から4コーナーでポジションを上げ、メンバー中で最速タイとなる上がり(3ハロン35秒3)をマーク。懸命に粘るゼンノロブロイを交し去り、栄光のゴールに飛び込む。距離延長、道悪、左回りといった不安材料も跳ね除け、堂々たる2冠達成がかなった。

 デムーロ騎手は、こう感慨深げに振り返る。
「どの国でも、ダービーは重みが違う。イタリアやスペインでも勝った経験があるけど、ネオユニヴァースとともに競馬史に名を残せ、信じられない気分だった。騎手としてデビューして以来、ナンバーワンの出会い。まさに夢の馬だね。日本との距離がぐっと縮まったし、もっと上を目指してがんばりたいと意欲がわき起こってきた」

 古馬の壁に阻まれ、宝塚記念は4着。秋シーズンも神戸新聞杯(3着)、菊花賞(3着)、ジャパンC(4着)とひと息の成績に終わったが、翌春の大阪杯では格の違いを見せ付ける。59キロを背負いながら、きっちり差し切りが決まった。

 さらに上積みが見込めた天皇賞・春だったが、イングランディーレの大逃げがはまった特殊な展開。接触してバランスを崩すシーンもあり、10着に沈む。結局、これがラストラン。宝塚記念を目指す過程で右前に屈腱炎を発症し、種牡馬入りが決まった。

「ネオユニヴァースのハートはすばらしい。騎手なんて必要ないくらい頭が良かった。それが子供たちにも伝わっている。特に、ヴィクトワールピサがファンタスティックホース。あの馬で有馬記念やドバイワールドCを制したときの感激といったら。私の未来を変えてくれ、ずっと後押ししてくれたよ」(M・デムーロ騎手)。

 数多いサンデーサイレンスの後継にあって、大舞台での強さは断然。ファーストクロップよりアンライバルド(皐月賞)、ロジユニヴァース(ダービー)が登場したのに続き、ヴィクトワールピサ、ネオリアリズム(クイーンエリザベス2世C)が世界へもその名を轟かせた。2021年、残念ながら天国に旅立ったとはいえ、ヴィクトワールピサの産駒のみならず、ブルードメアサイアーとしての成績も優秀。孫世代からもデムーロ騎手を魅了する逸材が登場するに違いない。