サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ムスカテール
【2013年 目黒記念】長い直線で勇躍する不器用な銃士
自在の脚でG1を4勝したマヤノトップガン。自身と同等クラスの大物は送り出せずに種牡馬を引退したが、チャクラ(ステイヤーズS、目黒記念)、メイショウトウコン(東海Sなど重賞を5勝)など、個性豊かな産駒が様々なカテゴリーを賑わした。ムスカテールも父の名を高めた実力派である。
「ノーザンファーム早来で乗り込まれ、2歳の10月に入厩。母(師がかつて調教助手を務めた松田国英厩舎の所属)は激しい気性の持ち主でしたが、あまり似ていませんよ。おっとりして頼りない雰囲気。調教はそれなりに動くとはいえ、もともと体質が弱かった。トップガンはダートも走りますし、まずは負担がかかりすぎない条件を選んだんです」
と、友道康夫調教師は若駒当時を振り返る。
母シェリール(その父サンデーサイレンス)は芝の中距離で4勝をマーク。同馬の半弟にデルカイザー(4勝) グロンディオーズ(ダイヤモンドSなど5勝)がいて、優秀な繁殖成績を誇る。祖母ジェドゥーザムールの産駒にはウイングドラヴ(愛ダービー)やダイワカーリアン(札幌記念など重賞を3勝)ら。底力に富む血筋である。
阪神のダート1800m)に初登場し、いきなり勝利を収めたムスカテール。レースの反動は大きかったが、4か月の休養を経ると、4月の同条件もあっさり連勝する。芝に転じたプリンシパルS(5着)では、後方から一気の末脚を繰り出す。白百合Sも大外から4着まで差を詰めた。
「トモがパンとせず、出遅れるのが常でしたからね。3歳秋はセントライト記念(9着)を使って上向き、自己条件(鳴滝特別)で能力の違いを見せました。でも、その後は堅実に掲示板を確保しながら、5連敗というもどかしい状況。右回りだと内にもたれてしまい、前が詰まったりする不器用さに泣かされましたよ」
スムーズに手前が替えられないゆえの取りこぼし。一方、左回りでは直線でまっすぐに伸びる。5か月間のリフレッシュを挟み、叩き3戦目となる木曽川特別を突破。格上挑戦となった新潟記念でも僅差の5着に健闘する。オクトーバーSを順当に差し切り、アルゼンチン共和国杯でも2着を確保する。
「レースの疲れが癒えるのが早くなり、ワンランク上の仕上げを施せるように。依然として若さが目立つなかでも、着々とパワーアップされてきました。ただし、調教で改善を図っても、走りのバランスはサウスポー。日経新春杯(2着)、日経賞(3着)と勝ち切れず、天皇賞・春(16着)は先行策が裏目に出て、終始、もたれてしまって。得意な舞台となる目黒記念では、なんとか結果を残したかった」
陣営の情熱に応え、ムスカテール(フランス語で銃士)は、ついに重賞のゴールを射抜く。前走で走っていないぶん、状態もピーク。勝負どころまでは中団で自分のリズムを守っていたが、ラスト3ハロンはレースの上がりを1秒1も上回る34秒1の鋭い伸びを駆使した。タイムはレコード。1馬身半の差を付ける快勝だった。
ところが、5歳秋以降は身のこなしに硬さが目立ち、なかなかフレッシュさを取り戻せない。久々のダートとなった川崎記念を2着したが、きっかけをつかめずに10連敗を喫した。それでも、メトロポリタンSに勝ち、底力を示す。右前脚に屈腱炎を発症してしまい、目黒記念(7着)以降は長期のブランクを経たが、9歳シーズンまでタフに健闘を続けた。
引退後は中京競馬場で誘導馬を務めたうえ、愛知学院大学馬術部にて乗馬となった。息長く活躍してほしい。