サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ジェルミナル
【2009年 フェアリーステークス】春を待たずに訪れた芽吹きのとき
ブエナビスタ(桜花賞、オークス、ジャパンCなどG1を6勝)が牽引した2009年の牝馬クラシック戦線。徹底的に馬づくりにこだわるプロ集団、藤原英昭厩舎には、08年にJRA総合リーディングサイアーに立ち、サンデーサイレンスの後継ではエースの座を確保したアグネスタキオンを父に持つ3頭の実力派がいて、虎視眈々と逆転を狙っていた。ブロードストリート(ローズS、秋華賞2着)、ワイドサファイア(フローラS2着)、そして、ジェルミナルのことである。
最も早くデビューを迎え、順調にスター街道を駆け上がったのがジェルミナル(馬名はフランス語で芽吹きのとき、芽の月との意味)。2歳8月、札幌の芝1500mは3着に敗れたものの、スタート後に2度、他馬と接触する不利を受けたのが敗因であり、直線の伸び脚はきらりと光るものがあった。
きちんと態勢を整え直し、10月の京都(芝1800m)へ。単勝1・6倍の人気に応え、2馬身差の快勝を収める。馬なりでラスト1ハロンを11秒3で突き抜けた。続く黄菊賞はクビ差の辛勝ではあったが、ゴール前の切れは断然。非凡な性能をアピールする。
2番人気に推された阪神JFは、17番枠から好位へとポジションを押し上げた結果、直線で失速して6着。ブエナビスタの強さを引き立てるかたちとなった。翌春のリベンジに向け、賞金加算とレースを教え直す必要を感じた陣営は、フェアリーSへの参戦を決断する。
今度は最内となる1番ゲートからのスタート。中山のマイルでは絶好の馬番といえたが、先々を見据えてラストまで末脚を温存するのが重要な課題である。好発を切りながら手綱を緩め、インの4、5番手で折り合いに専念した。ロスなく直線に向き、瞬時に加速。余裕の手応えであっさりと勝負を決める。初戦を除き、ずっと主戦を務めたのが福永祐一騎手(現調教師)。会心の勝利に、こう笑みを浮かべた。
「ペースは遅かったけど、その気にさせないように注意。瞬発力に賭けたんだ。うまくさばけるか心配したが、狙いどおりに前が開いてくれた。スムーズな競馬ができ、目指すG1の舞台に楽しみがふくらむ」
チューリップ賞(5着)を経て、桜花賞は3着。オークスもブエナビスタ、レッドディザイア(後に秋華賞やドバイのマクトゥームチャレンジラウンド3に優勝)の2強に先着を許し、無念の3着に終わる。
過酷な戦いが堪えたのか、秋以降は意外な低迷。4歳春の福島牝馬S(6着)まで歩んだ段階で右前に屈腱炎を発症し、繁殖入りすることとなった。
輝きを放った瞬間は短かったけれど、「タキオン3人娘」と呼ばれたアイドルユニットにあって、「魅力的な母系だけに、スケールの大きさではこの馬」と、トレーナーも素質を高く評価していたジェルミナル。繁殖入り後は大きな期待に反し、いまのところJRAで勝ち上がった産駒はジルブラス(1勝)のみだが、その母はアイルランドに生まれ、G3のペネロープ賞などフランスで2勝したオンブルリジェール(その父ダブルベッド)である。そろそろ大物が登場しそうな予感がする。