サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ジュールポレール
【2018年 ヴィクトリアマイル】温かい愛情に支えられた沈まぬ太陽
サマーナイトシティ(その父エリシオ、ダートで3勝)は、西園正都調教師にとって思い入れが深い繁殖。マイルCSなど重賞を5勝したサダムパテックの母であり、その半妹にあたるジュールポレールもヴィクトリアマイルでG1制覇を果たした。
「クラシックの夢はオルフェーヴルに阻まれた(皐月賞は2着)が、これまで手がけた馬のなかでもパテックは最高の逸材。貴重な出会いが、ジュールポレールとの縁も運んでくれた。顔付きがよく似ていてね。背中の柔らかさも共通するものがある。しかも、妹はトップサイアーのディープインパクトが配されて誕生。もともと兄に近付けるポテンシャルを見込んでいたよ」
と、西園正都調教師は若駒当時を振り返る。
しかし、右前の球節や左飛節に炎症を発症してしまい、追分ファーム・リリーバレーでの乗り込みはゆっくり進められた。山元トレセンに移ってペースアップされ、3歳3月、ようやく師の手元にやってきた。
「仕上げには慎重さが求められた。脚元だけでなく、牝らしくデリケート。引っかかったりせず、乗りやすいけれど、走ることに真面目すぎるくらい。やれば動ける感触があっても、飼い食いが細くならないよう、気持ちを追い込まない程度のソフトな調整を心がける必要があったね」
既走馬が相手となった京都の芝1600mは5着。2戦目の同条件を2着した後、6月の阪神(芝1600m)で順当に初勝利をつかむ。都井岬特別(5着)は、窮屈になって追い出しが遅れた結果。早めに先頭に立って目標にされながら、鳥栖特別も2着に踏み止まった。
「意識的に出走間隔を空けたのも、将来を見据えてのこと。素直さを失わず、経験を積むごとに競馬を覚えてくれたよ。無駄肉が付かず、かちっとしたスタイルは変わらなくても、だんだん中身も詰まってきた」
京都のマイル、衣笠特別と、インを巧みに立ち回って連勝。うずしおSに完勝し、オープン入りを果たした。好位でスムーズに折り合い、ラスト3ハロンも32秒8でまとめる圧巻の内容だった。
阪神牝馬S(3着)での健闘に続き、ヴィクトリアマイルも3着に食い下がり、本格化を印象付ける。秋風Sを順当に突破。エリザベス女王杯(16着)は、距離延長と外を回るロスが響いた結果だった。じっくりと間隔を開け、阪神牝馬S(5着)より5歳シーズンをスタートさせる。
そして、大目標のヴィクトリアマイルでは、生涯最高のパフォーマンスを演じた。窮屈な競馬となった前走を踏まえ、リズムを重視して中団の外を追走。満を持し、直線半ばでゴーサインを送られると、先に抜け出したレッドアヴァンセ(3着)をきっちり捕らえ、猛追するリスグラシュー(2着)もハナ差だけ退け、鮮やかに栄光をつかみ取る。
「重賞となれば、あと一押しが利かず、じれったかったけれど、キャリアが浅いぶん、伸びる可能性をたっぷり残していた。体重は以前と変わらないが、背丈が伸び、成長を感じていたね。それに、脚元の不安が解消したのが一番の勝因だと思う。想定より位置取りは後ろでも、雨が降った馬場状態(やや重)を考え、走りやすいところを選ぶ好判断。すっかり手の内に入れているジョッキー(幸英明騎手)の力も存分に生かされた結果だよ」
陣営の温かい愛情に包まれ、陽の当たる道を歩み続けたジュールポレール(フランス語で白夜の意味)。秋シーズンは勝利をつかめなかったものの、府中牝馬S(4着)、マイルCS(6着)、阪神C(5着)と堅実に成績をまとめ、余力を残して繁殖入りした。きっと母としても、大きな仕事を成し遂げるに違いない。