サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

シーザリオ

【2005年 オークス】男勝りの身体能力を備えた伝説のヒロイン

 シェークスピアの「十二夜」に登場するヒロインが男装時に用いた名前が付けられたシーザリオ。勇敢な性格に加え、男勝りの身体能力を備えていた。「自分にとっての最強牝馬」だと、主戦を務めた福永祐一騎手(現調教師)も評価する。

 伝説の名牝となったシーザリオの競走生活は、わずか6戦。そのスタートは2004年12月、阪神の芝1600mだった。スローの好位から鋭く抜け出した。非凡な才能やセンスの良さは示していたものの、強力な牡馬が揃った年明けの寒竹賞では4番人気。それでも、好スタートを決めると持ったままで3番手を進み、懸命に追いすがるアドマイヤフジ(クビ差の2着)らを封じ込んでしまう。卓越した勝負根性が光った。

 2か月間のリフレッシュを経て、フラワーCへ。単勝1・4倍にふさわしいパフォーマンスを披露する。逃げて2着したスルーレートを見るかたちで折り合いを付け、早くも直線入り口では捕らえに出る。レースのラスト3ハロンが34秒6という決め手比べのなか、2馬身半も突き離した。余力を残しながら、3戦目で重賞優勝。頂点へと続く道が一気に開けた瞬間だった。

 桜花賞はアタマ差の2着に敗れたが、メンバー中で最速となる34秒4の末脚を発揮。勝ち馬のラインクラフトはNHKマイルCも制した同距離のスペシャリストである。

 福永騎手に手綱が戻ったオークスでは、絶望的に思われたポジションより33秒3の上がりを駆使。みごとにクラシック制覇を成し遂げる。クビ差の2着は、のちに秋華賞を勝つエアメサイアだった。

「馬に勝たせてもらいました。いつもスタートがいいのに、出ていかなくて。スローな流れになりましたが、ジタバタしても仕方がない。力む面も見せたとはいえ、なんとか我慢できましたよ。直線手前で窮屈になっても、脚があるから難なくさばけた。桁違いの内容です」
 と、ジョッキーは安堵の笑みを浮かべる。

 ラストランとなったのはアメリカンオークスだった。3角先頭から楽々と押し切り、ゴールでは4馬身差の圧勝。父内国産として初めてアメリカの国際G1を手中に収めた。ところが、レース中に繋靭帯炎を発症。結局、復帰はかなかわなかった。

 父スペシャルウィークに初のG1をプレゼントした同馬。母キロフプリミエール(G3・ラトガーズBCHなど英米5勝)は欧州の至宝であるサドラーズウェルズの肌である。軽快なスピードだけでなく、強靭なスタミナや大舞台向きの底力も持ち味だけに、繁殖成績も超一流。エピファネイア(菊花賞、ジャパンC)、リオンディーズ(朝日杯FS)、サートゥルナーリア(ホープフルS、皐月賞)と次々にスターホースが誕生した。母に続きエピファネイア、リオンディーズも手がけた鈴木裕幸調教助手は、こう幸せな巡り会いに感謝する。

「子供たちはみなシーザリオに似て、性格的に前向き。走り出せばアクセル全開になりがちです。ただ、そんななかでも無駄な動きが少なく、あり余る力をロスしなかったのが、お母さんのすばらしさでした」

 2021年に動脈断裂に見舞われて天国に旅立ったシーザリオ。それでも、エピファネイア、 リオンディーズ、サートゥルナーリアと送り出した3頭のG1ウイナーが種牡馬となり、女傑の遺伝子を次世代へと伝えている。この先も血のドラマは豪華に発展を遂げていく。