サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ショウナンパンドラ

【2014年 秋華賞】豊穣な恵みが詰め込まれた女神の玉手箱

 成長がたっぷり見込める状況で、2歳12月の阪神(芝1800m)に初登場したショウナンパンドラ。大外一気に2着を確保した。高野友和調教師は、こう若駒当時を振り返る。

「1歳の秋に初めて見たときは、ころんとした幼児体型。いかにも晩生に思えましたし、ノーザンファーム空港での育成もゆっくり進められました。それでも、身体能力は優秀。10月に入厩した時点でも可動域が広く、全身を柔軟に使えましたね」

 父は歴代トップのG1勝利数を誇るディープインパクト。抜群の切れ味をストレートに受け継いだ。母キューティゴールド(その父フレンチデピュティ)は未勝利だが、その兄姉にステイゴールド(香港ヴァーズなど重賞4勝)、レクレドール(ローズS、クイーンS)らがいる豪華な一族である。

 2戦目の京都(芝2000m)を順当に勝利。エルフィンSも2着に追い込む。不利な流れのなか、フラワーC(5着)、スイートピーS(5着)、カーネーションC(2着)と健闘を続けた。

「スタートが苦手なだけに、展開に左右されがちではありましたが、引っかかったりしないのは長所。レースを嫌にならず、気持ちはまっすぐなままです。使われながら、肉体面も着実に強化。3か月間の休養を挟み、さらに充実しましたよ。細化の心配もなく、しっかり乗り込めるようになりました」

 糸魚川特別を快勝。紫苑S(2着)で優先出走権利を手にし、秋華賞へと駒を進める。最内をロスなく立ち回り、ラストで持ち前の瞬発力を駆使。みごとに栄冠を勝ち取った。

「ジョッキー(浜中俊騎手)の好騎乗も大きかったですが、あの時点で最高の状態で送り出せましたからね。エリザベス女王杯(6着)に関しては、コース取りの差に泣いたもの。脚は使っています。3歳でG1を獲っていても、展開に恵まれたと判断され、実力に見合った評価を与えられず、4歳シーズンこそはと期するものがありましたよ。少し背が伸び、大人っぽいスタイルに。もともと調整がしやすい素直な性格ですが、ぐっと落ち着きを増しました」

4か月半ぶりとなった大阪杯は9着に敗れたものの、不良馬場が堪えた結果。先行勢に有利な流れに、ヴィクトリアマイルも8着に終わる。宝塚記念で3着に巻き返し、さらなる飛躍を予感させた。

 待ちに待った豊穣の季節が到来。秋初戦にはオールカマーを選択する。出遅れながらも、コーナーから持ったままで進出を開始。直線で断然の末脚を爆発させ、1馬身半差の快勝を収めた。

「こんな馬じゃない、日本を見渡しても最高の素材だとの思いを持ち続けていました。リラックスして折り合えたのを見て、勝利を確信。なんとか持てる力をかたちに残し、国内で最も輝かしい勲章を与えてあげたかった」

 トレーナーの熱い気持ちは、馬にも伝わっていた。天皇賞・秋(4着)は外枠のロスが響いたが、上がり(3ハロン33秒4)はメンバー中で最速タイだった。そして、近年は牝馬の活躍が目立つジャパンCへ。ウオッカ、ブエナビスタ、ジェンティルドンナに続き、ショウナンパンドラも最高峰を極め、女傑の系譜を継承した。道中はじっと脚をためていたが、直線でゴーサインを送ると、狭い馬群を割って脚を伸ばす。みごとにクビ+クビ差の熾烈な追い比べを制した。

 有馬記念をパスし、翌春の大阪杯(3着)より再スタート。後方から鋭く迫りながら、ヴィクトリアマイルは3着だった。宝塚記念を目指していたが、左ヒザを骨折するアクシデントに見舞われる。秋まで治療を続けたところで、引退が決まった。

 神々よりたくさんの才能をプレゼントされたパンドラ(ギリシア神話に登場する人類最初の女性であり、すべての贈り物との意味)。携えたピュクシス(箱)を開いてみれば、輝かしい希望が満ちていた。すでにパンドレア(2勝)ら3頭がJRAで勝ち上がっているが、繁殖としての本領発揮はこれから。きっと次世代へと卓越したギフトを伝えていくに違いない。