サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ジュエルオブナイル

【2009年 小倉2歳ステークス】健気に闘争心を燃やすデリケートな少女

 抜群の末脚を駆使し、スプリンターズS、マイルCS(2回)を制したデュランダル。サンデーサイレンスの後継ながら、2年連続でJRA賞の最優秀短距離馬を受賞した。エリンコート(オークス)、フラガラッハ(中京記念2回)、スイートサルサ(福島牝馬S)、プレイアンドリアル(ジュニアグランプリ、京成杯)など、種牡馬となっても順調にタイトルホルダーを送り出したが、ファーストクロップにして、真っ先にステークスウイナーに輝いたのがジュエルオブナイルだった。

 母はアイルランド産のレディオブチャド(その父ラストタイクーン)。フランスで走り、G1・マルセルブサック賞など重賞を3勝した。アルカザー(ロイヤルオーク賞)、イヴァンカ(フィリーズマイル)、イエーツ(全欧チャンピオンステイヤー、コロネーションC、ゴールドC4回、ロイヤルオーク賞、愛セントレジャー)ら、近親にG1ウイナーがずらりと並ぶ豪華なファミリー。同馬の半兄にアフリカンビート(3勝)、ボーダレスワールド(4勝)、ポールアックス(4勝)がいる。

 社台ファームの育成時より軽快な動きに定評があり、2歳7月に栗東へ移動すると、短期間で出走態勢が整った。小倉の芝1200m(2着)でデビュー。終始、もたれてしまい、なかなかエンジンがかからなかったとはいえ、ラストの脚は目立つものがあった。中2週で同条件の未勝利を逃げ切る。後続に3馬身の差を付ける楽勝だった。

 さらに中1週で小倉2歳Sへ。軽めの追い切り1本で臨みながら、パドックでもイレ込みが目立った。それでも、きちんと集中力を保ち、好ダッシュを決める。2ハロン目から10秒4、11秒3という激流でも、抑え切れないほどの勢いで2番手を進んだ。4コーナーで外へ逃げながら、早々と先頭。そのまま押し切ってしまった。最後にクビ差まで詰め寄られたとはいえ、完勝といえる内容だった。

「若いころは気持ちが先走り、操縦にひと苦労しました。体質面も繊細でしたしね。それなのに持ち前のスピードを存分に発揮でき、素質だけで重賞に手が届いてしまった。苦しい展開のなか、手応え以上に伸びたあたりは立派。闘争心がすごいんです」
 と、佐藤淳調教助手(荒川義之厩舎)は振り返る。

 思ったより体が増えてくれなかったうえ、しばらくは折り合いの難しさに泣く。紅梅S(3着)、葵S(3着)などで見せ場をつくりながら、一線級を相手に苦戦が続いた。1000万クラスに降級後は3走で2着したものの、4歳暮れの耶馬渓特別まで15連敗を喫してしまう。

 しっかりとリフレッシュを図ったことで、5歳夏に完成期を迎える。テレビユー福島賞を快勝し、オープンに返り咲いた。行き脚が付かなかったアイビスサマーダッシュでも、5着を確保している。

「馬って簡単に決め付けてはいけないと、改めて教えられた。仕上がり早の典型かと思わせながら、想像以上に奥がありましたね。勲章をもうひとつ獲れなかったのが心残りでも、ラストランまで懸命に走り抜いてくれました」

 京洛S(2着)、京阪杯(6着)まで戦績を重ねて繁殖入り。卓越した身体能力や懸命な魂は次世代へと受け継がれていく。ゴールドケープ(2勝、フィリーズレビュー3着)、スターオブザナイル (地方12勝)、グレースオブナイル (2勝)に続く活躍馬の登場を楽しみに待ちたい。