サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ジョリーダンス

【2009年 阪神牝馬ステークス】長き春に勇躍する永遠の少女

 手にしたJRA重賞は通算78勝、海外を含めてG1のタイトルも24勝に到達した堀宣行厩舎。8歳のラストランで生涯最高のパフォーマンスを演じたキンシャサノキセキ(高松宮記念2回)、マイルから2000mへと守備範囲を広げ、香港カップにて有終の美を飾ったモーリス(他に安田記念、マイルCS、香港マイル、チャンピオンズマイル、天皇賞・秋)らが象徴するように、それぞれの未来図に沿って、丁寧な仕事を貫いている。

 同ステーブルの所属らしく、晩年まで輝きを失わなかった一頭にジョリーダンスがいる。パドックではがらっと気持ちが切り替わり、盛んにクビを上下に振るのが特徴だったが、普段は人を信頼し、本当に従順だった。いつも目を輝かせ、愛らしく鼻面を寄せてくる。誰からも好かれる「看板娘」だった。

 ジョリーダンスの母ピーターホフズパティアも、アメリカで52戦16勝。タフに走った。ダンスインザダーク産駒らしくない芦毛やたくましい前躯は、強靭な母系から受け継がれたものである。

 2歳12月の中山、芝1600mで迎えたデビュー戦は、ダンスインザムード(桜花賞、ヴィクトリアマイル)の2着。4戦目の未勝利(阪神の芝1400m)を逃げ切ったものの、当時は力んで走りがちだった。3歳秋に中山の芝2000m、東京のマイルと連勝。ところが、翌春に3戦したところで、爪と屈腱にトラブルが。1年5か月もレースから遠ざかる。

 ただし、根気強く立て直したことで、精神面が充実した。末脚を生かす戦法への転換が成功。復帰2戦目に1000万下(東京の芝1600m)を順当勝ちしたうえ、初の1200mにも難なく対応し、韓国馬事会杯に勝利する。

 単勝13・4倍の5番人気にすぎなかった阪神牝馬Sだったが、好スタートから中団に控え、直線で堂々と抜け出した。後続にコンマ2秒差を付ける完勝。久々に跨った藤田伸二騎手も、こう驚きの表情を浮かべた。

「ペースが流れ、理想的な位置だったし、この距離はレースがしやすい。4コーナーで窮屈になったし、外へ出すときも雨で湿った馬場にトモを滑らせたけど、伸び脚は違ったね。別馬のように強くなっている」

 6歳時のヴィクトリアマイルは、メンバー中で最速となる32秒9の上がりを繰り出しながら、位置取り、コース取りの差で5着。安田記念も積極策で3着に健闘した。その後は放牧先で体調を崩して熱発。阪神Cで2着するなど、実力の片鱗を示しながらも、なかなか状態は上向かなかった。

 7歳になっても力の衰えは感じさせなかったものの、阪神牝馬Sは5着。懸命にがんばる真面目な性格だけに、レースぶりはやや柔軟性を欠く。少しのアクシデントが大きく響いてしまう傾向にあった。ヴィクトリアマイル(7着)は、直線で他馬と接触。スプリンターズS(13着)も向正面で挟まり、マイルCS(15着)はブリンカー着用が裏目に出て、後方に置かれてしまった。

 それでも、陣営の丁寧な取り組みがあったからこそ、レースを嫌になることはなかった。8歳春は阪急杯(6着)を経て、阪神牝馬Sへ。ようやく不運の連鎖を断ち切り、ここで2度目となる重賞制覇を成し遂げた。

 平均ペースで流れるなか、中団で折り合いを付ける。直線で外へ持ち出すと、矢のような伸び脚を駆使した。ラスト3ハロンは次位をコンマ6秒も上回る33秒6。本来はこの一戦で引退する予定だったのだが、年齢的な常識を超えるベストパフォーマンスを披露したのである。初めて手綱を取った四位洋文騎手も、驚きを隠そうとしなかった。

「マイナスの先入観を持たずに乗ったのが良かった。もともと力がある馬だし、このコースも最適。それにしても強かったね」

 オーナー(俳優の小林薫氏を代表とする「小林薫会」の共有馬。土井睦秋氏をはじめ、吉田照哉氏、吉田勝己氏、岡田牧雄氏が出資)からのアンコールに応え、ヴィクトリアマイル(5着)、キーンランドC(13着)と、さらに2走をキャリアに加えた。軽い骨折を発症しなければ、翌春まで健気に競走生活を送ったことだろう。

 繁殖入り後はテルメディカラカラ(4勝) 、ベンガン(1勝、地方3勝) 、フラッシュアーク(2勝)らを送り出したジョリーダンス。繁殖牝馬を引退したが、高齢になっても若々しいままだという。いつまでも元気でと祈りたい。