サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
アドマイヤジャパン
【2005年 京成杯】生まれた時代が違っていたら
生まれ落ちた時点で、大きな夢が託された逸材だったアドマイヤジャパン。日本競馬を世界レベルに押し上げたサンデーサイレンスを父に持ち、阪神3歳牝馬S(当時)でG1を制覇したビワハイジ(その父カーリアン)が母という超良血である。同馬の弟妹にあたるアドマイヤオーラ(弥生賞など重賞を3勝)、ブエナビスタ(牝馬クラシック2冠、天皇賞・秋、ジャパンCなどG1を6勝)、トーセンレーヴ(エプソムC)、ジョワドヴィーヴル(阪神JF)、サングレアル(フローラS)らも、次々とタイトルを奪取している。
2歳12月、阪神の芝2000mに初登場すると、出遅れを跳ね除けてあっさり新馬勝ち。性能の違いを見せ付ける。続くラジオたんぱ杯2歳Sは3着に敗れたとはいえ、最速タイとなる3ハロン33秒5の脚を駆使した。
4歳緒戦には京成杯を選択。過酷な不良馬場となったなか、スタートで後手を踏んだものの、慌てず後方の内目で我慢。3コーナーからじわっと促され、直線で外に持ち出されると、力強いフットワークで悠々と抜け出した。
「前走は極端なスローペース。気性的な若さを出してしまったしね。まだ粗削りだけど、だんだんレースを覚え、順調に進歩。普通に出れば、前へ行こうと思っていたが、それでも道中の手応えは上々だった。ここで負けてはいけない器だもの」
と、これが2戦目の騎乗となった横山典弘騎手も、納得の笑みを浮かべた。
弥生賞(2着)はわずかクビ差の惜敗。勝ったのは、後にクラシック3冠のみならず、天皇賞・春 、宝塚記念、ジャパンC、そして有馬記念まで絶対的な王座を守ったディープインパクトだった。皐月賞(3着)、ダービー(10着)、神戸新聞杯(5着)も、脇役に甘んじてしまう。
6番人気まで人気を下げた菊花賞(2着)だったが、横山ジョッキーは巧みに2番手で流れに乗せた。4コーナーでは満を持して先頭へ。やはり稀代の名馬の決め手は抜けていて、2馬身の差を付けられたものの、3着は4馬身も後方だった。
「理想的に運べ、直線も本来ならセーフティーリード。しっかり力を出し切り、最後までよく伸びている。生まれた時代が悪かったなぁ」
これで気持ちが途切れたのか、ジャパンCを11着。大阪杯でも9着に敗退する。天皇賞・春に向けて調整中に屈腱炎を発症してしまい、早すぎる引退が決まった。
ディープインパクトとは対照的に目立った産駒を送り出せず、2018年、種牡馬を引退。ヴェルサイユリゾートファームにて静かに余生を送っている。ソファーメーカーのCMキャラクターとなり、一躍、注目を集めた。リラックスして寝転ぶ姿に反し、現役時代は猛々しいパフォーマンスを披露したアドマイヤジャパン。その勇姿は、いまでも一流の輝きを伴って鮮やかに蘇ってくる。