サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ジョワドヴィーヴル

【2011年 阪神ジュベナイルフィリーズ】精一杯に燃やした高貴な命

 生まれ落ちた瞬間から、大きな夢を託されていたジョワドヴィーヴル。まさに夢の配合だった。史上最速のスピードで勝ち鞍を量産したディープインパクトが父。母ビワハイジ(その父カーリアン)は阪神3歳牝馬S(当時)の覇者である。繁殖成績も超一流。同馬の兄姉にアドマイヤジャパン(京成杯、菊花賞2着)、アドマイヤオーラ(弥生賞、京都記念、シンザン記念)、ブエナビスタ(桜花賞、オークス、ジャパンCなどG1を6勝)、トーセンレーヴ(エプソムC)らがいる。サンデーサラブレッドクラブの募集総額は7000万円に設定された。

 ノーザンファーム早来でしっかり乗り込まれ、2歳の9月に栗東へ。勝ち気な気性だけに、ゲート練習は時間を要した。1回目の試験はスタートダッシュがひと息。2度目にも枠入りを躊躇して不合格となる。しかし、やきもきさせたのはここまでだった。10月末になって無事クリア。スマートなスタイルなうえ、身体能力も非凡であり、短期間で出走態勢が整う。

 11月の京都、芝1600mに初登場。余裕を持って抜け出した。1戦1勝の身ながら、2戦目は阪神ジュベナイルF1本に的を絞る。素質に揺るぎない信頼を寄せる陣営の姿勢が幸運を呼び込み、みごとに抽選を突破。披露したパフォーマンスも桁違いだった。直線半ばで馬群をひと飲みすると、2着に2馬身半の決定的な差。姉ブエナビスタに続き、2歳女王に輝く。

「1度レースを経験し、がらりと変わりましたよ。返し馬の感触が違い、これならいけると確信。スタートが良く、有力馬を見ながら、理想的なポジションで脚をためられました。折り合いが付き、追い出したら、どこまでも伸びそうな手応えで。左右のトモを同じくらいのタイミングで蹴り上げるフォームが特徴的ですね。空中を飛んでいる間隔が長い。エンジンがかかるのに少し手間取っても、そこから抜け出すのがあっという間でした。まだ完成途上なのに、末恐ろしい内容。すごい瞬発力です」
 と、福永祐一騎手は目を丸くした。

 たが、強烈すぎるキック力は、もろ刃の剣でもあった。身体に多大なダメージを与えたのだろう。一躍、クラシック候補の筆頭に踊り出たものの、チューリップ賞は単勝1・3倍の人気に反し、伸び切れず3着。桜花賞でも1番人気を裏切り、6着まで差を詰めるのが精一杯だった。

 レース後、右トモの球節付近に骨折を発症していたことが判明。勝ったジェンティルドンナが牝馬3冠のみならず、ジャパンC連覇、ドバイシーマクラシック優勝と輝かしい栄光をつかんだのと対照的に、苦難の日々が訪れる。

 丁寧に立て直され、京都記念(7着)で10か月ぶりに復帰を果たす。中日新聞杯も6着だったとはいえ、後方から繰り出した末脚に見どころがあった。直線勝負に徹したヴィクトリアマイルは4着。レースの上がりをコンマ9秒も上回るラスト33秒3の鋭さを駆使している。

 いよいよ軌道に乗ったかと思われたが、鳴尾記念への最終追い切りでアクシデントが。左後肢の下腿骨を粉砕骨折するという重傷を負い、予後不良となった。あまりに突然の、悲しすぎる別れだった。

 ブエナビスタの手綱を取ったクリストフ・スミヨン騎手が、東日本大震災に見舞われた被災地への祈りを込め、フランス語で「生きる喜び」と名付けた天才少女がジョワドヴィーヴル。阪神JFで懸命に闘志を燃やした姿は、いつまでも多くの心に生き続ける。