サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ショウリュウムーン

【2012年 チャレンジカップ】煌々と光を放つ師走の満月

 ここ一番での強さに定評があり、51勝ものJRA重賞を手にしてきた佐々木晶三調教師。それでも、ショウリュウイクゾで日経新春杯を制覇した際は、格別の喜びを味わったという。

「だって、思い出深いショウリュウムーンの子供だもの。妹弟のショウリュウハル(現3勝)、ショウリュウレーヴ(現2勝)も、よう頑張っている。感謝の気持ちでいっぱいだよ」

 繁殖としても名を高めたショウリュウムーン。トレーナーは、幸せな巡り会いを目を細めながら話してくれる。

「初めて見たのは生まれて2週間後くらい。女の子らしく、かわいい馬だった。この血統(父キングカメハメハ、母ムーンザドリームはダンスインザダークの肌)らしい素質の高さも伝わってきたけど、ちょっとヒザの付き方がずれていて、心配のほうが大きかったね。体を斜めにした独特のフォーム。ノーザンファーム空港より2歳の10月に手元に来てからも、慎重に育ててきた。気がいいから、やれば動くけど、実質2本のタイムを馬なりで出しただけでデビューさせたんだ」

 そんななか、京都の新馬(芝1400m)をいきなり2着。2戦目も(阪神、芝1400m)も、牡馬相手に3着でゴールした。続く京都の芝1600mを勝ち上がる。

「ずいぶん体が引き締まり、走れる態勢が整ってきた。それでも、6月7日という極端な遅生まれ。まだまだ本格化は先と見ていたよ。出れればいいなと思い、チューリップ賞へは軽い気持ちで投票。抽選を通った時点で運があった。あんな鮮やかに差し切ってしまうなんて。フィリーズレビューも除外されたら、自己条件へ行ったわけで、桜花賞は夢の夢。跳びが大きく、本来はこんな馬場(重)も向かないはずなのに」

 だが、一発長打を秘めていても、調子の維持が難しく、展開に泣かされるケースも多々。桜花賞では4着と確かな能力を垣間見せたものの、オークスは激しくイレ込み、17着に終わる。秋華賞も不利を受けて16着。その後も成績は上下動を繰り返した。

 それでも、4歳になり、京都牝馬Sに優勝。担当の北岑幸司調教助手に反撃がかなった舞台裏について訊くと、こんな答えが返ってきた。

「京都金杯(9着)は、もたれ方が半端じゃなくて。知人がわざわざやってきて、ジェーンビット(テコの原理を応用して制御力を高めたハミ)を教えてくれたんです。替えてみたら、のびのび体を使え、ぐっと重心が低くなり、ストライドの伸びも変ってきたんです。かつては背腰の疲れに悩まされたのに、追い切りの反動も軽減。落ち着いて返し馬ができるようになり、精神面の進歩にもつながりました」

 マイラーズC(14着)やヴィクトリアマイル(13着)は流れが向かずに不完全燃焼。秋シーズン以降は成績が安定し、ポートアイランドSで4勝目を挙げる。5歳シーズンも京都牝馬S、中京記念と2着に食い込むなど、衰えを感じさせなかった。

 そして、朝日チャレンジCでは3つ目のタイトルを手中に。全馬がコンマ6秒差内でゴールする大接戦となったが、馬群を割って懸命に脚を伸ばす。きっちりと差し切った。

「前がふさがったりして、ずいぶん悔しい思いもしましたが、諦めたらいけないと教えてくれた。一戦一戦がはっきりと記憶が残っています。翌春の中日新聞杯(16着)まで懸命に走ってくれました」

 と、北岑助手は満ち欠けを繰り返しながら歩んだ日々を振り返る。母となり、さらに未来へと輝きを放つショウリュウムーン。ショウリュウイクゾ、 ショウリュウハル(3勝)、ショウリュウレーヴ(3勝らに続く逸材の登場が楽しみでならない。