サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

シャトーブランシュ

【2015年 マーメイドステークス】愛らしくも闘志あふれる才能の泉

 3歳時の天皇賞・秋より翌秋のジャパンCまでG1を6連勝して、日本競馬史に偉大な蹄跡を刻んだイクイノックス。初年度の種付け料はディープインパクトやコントレイルをはるかに上回る2000万円に設定され、種牡馬としても絶大な支持を集めている。

 その母となったのがシャトーブランシュ。カワカミプリンセス、ローレルゲレイロをはじめ、様々な分野に活躍馬を輩出しているキングヘイローの産駒であり、ブランシェリー(父トニービン)は芝1800mで2勝をマークした。祖母がクイーンSを3着したメゾンブランシュ(5勝)。母の半兄には中山大障害や中山グランドジャンプを制したブランディスがいる。シャトーブランシュを管理した高橋義忠調教師は、引退時より繁殖としての成功を予言していた。

「戦績以上に奥深い可能性をうかがわせた思い出の馬。手探りでスタートした経験の浅いチームに、勇気や希望を与えてくれた。きっといい仔を産むと信じていましたよ」

 3歳1月、2戦目となる京都のダート1800mで初勝利。夏場にターフで一変し、鳥栖特別を豪快に差し切った。ローズSも目を見張る末脚で2着を確保。秋華賞(6着)にも駒を進めた過去がある。清水出美調教師の引退に伴い、4歳春より高橋厩舎の管理馬となった。

「普段はほんと愛らしく、チームのマスコット的な存在。顔をなでたら目を細め、じっとしているくらいです。それなのに、走るとなれば態度が一変し、闘志をむき出しに。気持ちのコントロールが難しいんです。もともと調教は動きましたし、非凡な才能を感じていながら、ずいぶん歯がゆい思いをしましたね」

 都大路S(4着)は、メンバー中で最速の末脚(3ハロン33秒6)が炸裂。マーメイドSも6着しながら、1000万クラスに降級後も2戦で人気を裏切った。久々の勝利を挙げたのが夕月特別。愛知杯(4着)、中山牝馬S(5着)と善戦したものの、準オープンの壁もなかなか突破できず、6連敗を喫した。

「飼い食いの細さに悩まされましたよ。それも精神面の影響です。いい状態を整えるのには放牧先(ノーザンファームしがらき)でのリフレッシュが重要。うまく連携できるよう、頻繁にコミュニケーションを取りました。調教パターンを替えたり、ずっと試行錯誤が続きましたが、難波S(3着)やパールS(4着)のころになって、だいぶリズムに乗ってきた実感がありましたね。5歳時のマーメイドSに向かうにあたっては、こちらでもある程度の時間をかけ、じっくり乗り込んだのが良かった。よりきめ細かく馬と向き合った結果、もう一段、上の態勢を整えることができました」

 そして、ついに待望の重賞制覇がかなう。レースのラスト3ハロンを1秒1も上回る33秒6の瞬発力を駆使。これまでの鬱憤を一気に晴らす圧巻のパフォーマンスだった。

「これまでより落ち着いて臨めたのが勝因。馬場状態は問いませんが、2000m前後の距離が合います。乗り手を選ぶところがあり、調教での騎乗スタッフを変更したのが功を奏しましたし、藤岡康太騎手ともうまくマッチ。ようやく結果に結び付き、喜びは格別でしたよ」

 秋シーズンは府中牝馬S(12着)をステップにエリザベス女王杯(10着)へ。チャレンジC(16着)も不発に終わったが、きらりと光る勲章を携え、余力を残して繁殖入りしたシャトーブランシュ。イクイノックスを通してサイアーラインの発展に寄与するだけでなく、兄に続く逸材を送り出すに違いない。