サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

チャンストウライ

【2008年 佐賀記念】地方の雄に到来したビッグチャンス

 園田競馬に偉大な足跡を残したチャンストウライ。寺嶋正勝調教師は、「日高育成公社のトレーニングセールで、上場順が最後から2番目。寒さに震えて待っていたら、他のバイヤーはほとんど帰ってしまった」と、幸運な出会いを振り返る。

 デビュー前は、「ゲートを出たら、ユーターンして止まる。頭を抱えたよ。調教の動きも平凡に映った」のにもかかわらず、2歳8月にファーストトライ(ダート820m)を豪快に差し切った。

 JRAの野路菊S、萩Sへ。メイショウサムソン、フサイチリシャールらの厚い壁に阻まれ、いずれも1秒5差の8着に終わったものの、「まだ馬が若く、イレ込みが響いた」のが敗因。続く園田のダート1400mを圧勝する。しかし、ここで試練が。右前のトウ骨を剥離骨折してしまった。

「がっかりしたけど、前の年までは4月に行われていた兵庫ダービーが、6月に移ったんだよ。なんとか間に合って、能力だけで勝つことができた」

 2冠目の菊水賞も連勝。しかも、「ゲートで隣の馬が暴れ、蹴られるアクシデント。蹄鉄がゆがんでいたのに」。再度の骨折によるブランクも楽々と乗り越え、兵庫大賞典では、3度目となる重賞の勲章を手にする。

 地元で1勝を加算したうえ、名古屋の梅見月杯(2着)、名古屋大賞典(5着)でも健闘。兵庫大賞典(1着)をステップに大井の帝王賞に挑むと、地方所属のなかで最先着(4着)を果たした。単勝は142倍の低評価だったが、追走に手一杯だったのにもかかわらず、直線では渋太くもうひと伸び。中央のスター・シーキングザダイヤを交わし去っている。

「トップクラスが相手となれば、どうしても厳しい流れに戸惑いがあった。園田はペースが遅いからね。積極的に外へ出ていけば、もっと強くなる手応えがあったよ。こんなに長く脚が使えて、勝負根性もすごい馬なんて、滅多にいないもの」

 姫山菊花賞(2着)、東海菊花賞(1着)、名古屋グランプリ(3着)と順調にキャリアを積み、佐賀記念に駒を進める。いよいよダートグレード競走でもチャンスが到来。後方から早めに気合いを付けて進出すると、追いすがるJRA勢をあっさり振り切り、4馬身も差を広げて栄光のゴールに飛び込んだ。

「4人で共有する組合馬主なんです。メンバーは、年齢や仕事を越えた競馬仲間。結成5年を迎え、記念の温泉旅行も兼ね、全員が佐賀競馬場に集合していました。すべてを合議制で運営していて、わいわいやるのが楽しいんですよ。そのうえ、こんな感激を味わえるなんて」
 と、同馬を所有する「ジェントルマンホースクラブ」代表の稲川達悦さんは満面の笑みを浮かべた。

 阪神大賞典(10着)以降、なかなか調子を取り戻せなかったものの、6歳時に兵庫大賞典、神姫バス杯、楠賞と勝利を重ねたチャンストウライ。03年のケンタッキーダービー馬であるファニーサイドも、ごく一般的な市民で構成されたシンジケートの所有だったことが思い出される。日本では、まず経済力が審査される馬主資格だが、幸運であることも要件ではないだろうか。運に恵まれた人は、さらに幸せな人を呼ぶ。地方競馬の活性化のために、組合馬主の制度はもっと利用されていい。