サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ショウワモダン

【2010年 ダービー卿チャレンジトロフィー】Z世代も郷愁をを覚えるレトロモダンな豪傑

 数々の個性派を送り出している杉浦宏昭調教師。通算13勝の重賞タイトルも手中に収めているが、3歳マイル王に輝いたテレグノシス(NHKマイルC)に続き、2010年にはショウワモダンが安田記念を制覇した。道悪巧者として知られていた同馬ながら、高速決着を豪快に差し切り。強烈なインパクトを残した。

「あの一戦を獲るために生まれてきた馬のように思える。最高の状態で臨めたうえ、位置取りも、追い出しのタイミングもぴたり。持てる力を最大限に発揮できたね」
 と、トレーナーは懐かしそうに振り返る。

 古馬になって本格化し、安田記念やマイルCSを制したエアジハードが父。祖父はサクラユタカオー(天皇賞・秋)であり、父仔3代に渡ってG1優勝を果たしたことになる。母ユメシバイ(その父トニービン)はセンリョウヤクシャ(阪急杯)の半妹にあたり、4勝をマーク。同馬の半兄にユメノシルシ(新潟記念)がいる。

 社台ファームでの育成時も能力を高く評価されていたが、いまひとつ真面目さを欠き、2歳時は惜敗を重ねた。6戦目となった中山(芝1600m)で初勝利。若竹賞も連勝し、スプリングS(4着)やニュージーランドT(8着)、ラジオNIKKEI賞(11着)にも駒を進めた。

 パワーに優れ、秋緒戦の紅葉特別は不良馬場での快勝。4歳2月にはダート1400mの斑鳩Sを押し切った。ダービー卿CT(6着)以降は足踏みしたが、降級2戦目のノベンバーSをぎりぎり逃げ切り、再びオープンへ。中山コースが最も得意なだけに、ニューイヤーSの2着を経て、東風Sに勝利。ただし、5歳時のダービー卿CTも8着に敗退し、重賞では決め手不足に思われた。

 福島テレビOP(2着)で健闘したとはいえ、福島記念(11着)まで7連敗。ディセンバーSでの勝利も、少頭数や展開に恵まれた感が強かった。それでも、タフにレースを重ねるうち、中山記念(3着)、東風S(3着)と成績が上昇する。

 ダービー卿CTは、3度目のチャレンジ。単勝16・6倍の7番人気に甘んじていたが、パドックでは抜群の気合い乗りが目立った。すっと2番手をキープし、ゆっくりした流れをのびのびと走れたうえ、ラストが11秒4、11秒1、11秒5という絶好の展開。逃げ馬を交わすと、後続に1馬身の差をつけ、あっさり勝負を決める。14回目の出走となった重賞で、ついに念願がかなったのだ。

「なにか特別なことをしたわけではない。なかなか全力を出してくれずに歯がゆかったし、馬の特徴は簡単に変えられないなか、不安定だった気持ちがひと皮むけ、ようやく自信を付けてきたんだろう」

 59キロの酷量を背負いながら、メイSを鮮やかに連勝。イメージを一新させる鋭い末脚を繰り出した。中1週で安田記念に登場すると、初となるG1の舞台でも遅咲きの血を一気に爆発させたのである。

 ピークのタイミングは短く、結局、その後は8連敗。安田記念を前に鼻出血を発症してしまい、ターフを去った。全47戦を懸命に走り抜けたのにもかかわらず、馬事公苑で乗馬となって半年、事故でこの世を去ったのが惜しまれる。

 だが、6歳春に突然、訪れた快進撃は、令和に時代が変わっても新鮮な驚きを伴って蘇ってくる。平成の競馬史上に異彩を放つ愛すべき豪傑だった。