サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ジャスタウェイ
【2014年中山記念】世界の頂へとつながる弾丸ハイウェイ
2歳7月、新潟の芝1600mを楽々と新馬勝ちしたジャスタウェイ。好位を追走し、直線は引き離す一方だった。後続に5馬身の差を付けている。ただし、持ち乗りで担当した榎本優也調教助手は、想像以上のセンスに目を見張ったという。
「入厩前にはデビューの目標もジョッキーも決まっていて、福永祐一騎手がノーザンファームしがらきで乗り味を確めていました。先生(須貝尚介調教師)からも期待の大きさを伝えられていましたね。実際に跨ってみても、サンデーサイレンス系らしい柔軟性が特徴で、想像どおりの素質馬でした。ただし、ゲートでじっとしなかったり、仕草が子供っぽくて。追い切りでの走りも頼りなかったんです。明らかにトモの力が不足。1週前、坂路で53秒1のタイムが出たのに、雨で荒れた馬場は苦手で、直前は一杯に追って57秒、終いは14秒4でしたから。不安を抱えながらレースに臨みましたよ。良化の余地をたくさん残しながら、あれほどの決め手を使えるとは」
有馬記念やドバイシーマクラシックを制したハーツクライが父。ファーストクロップから6頭のタイトルホルダーを送り出していたものの、2世代目にして同馬が初のG1ウイナーに輝くこととなる。母シビル(その父ワイルドアゲイン)は未勝利に終わったが、祖母のシャロンがCCAオークスなど重賞を5勝した名牝。同馬の同馬の半姉に北九州記念を2着したスカイノダンがいて、叔父のシグナリオも4勝をマークしている。
セレクトセール(1歳)での購買価格は1200万円。ハーツクライの出資会員でもあった脚本家の大和屋暁氏が、初の個人所有馬として落札した。ジャスタウェイとは、オーナーが構成を手がけたアニメーション「銀魂」に登場するキャラクター(爆弾の名)である。
新潟2歳Sはコンマ1秒差の2着に敗れたとはいえ、メンバー中で最速となるラスト32秒6の末脚を駆使。3着馬とは5馬身の差が広がった。
以降はずっと重賞戦線を歩み、5戦目のアーリントンCでは念願のタイトルを手にする。ところが、善戦しながらも10連敗。出遅れが響き、自慢の末脚が不発に終わることも多かった。
「ダービー(11着)後の休養で、ぐっとたくましくなりましたね。3歳の毎日王冠(クビ差の2着)は好状態で臨めました。でも、天皇賞・秋は一線級との差が出て6着。ストレスや疲れがたまりやすく、ピークは長く続かないんです。そんななかでも放牧から帰ってくるたび、トモに力が付き、競馬の反動が少なくなっていく。なかなか集中し切れない精神面の若さも、だんだん薄らいできました」
エプソムC、関屋記念、毎日王冠と3戦連続して2着に泣いたが、いずれもメンバー中で最速の上がりを駆使。一年前より進化した姿で、天皇賞・秋に駒を進めた。そして、驚きの楽勝を収める。
「登録の段階では除外対象。久々の中2週でしたし、台風の影響で金曜の輸送となりました。いろいろ心配しましたが、馬は到着後もよく我慢してくれ、前走以上の状態で臨めましたよ。それでも、まさか4馬身も離すなんて。ようやくつかんだ3勝目がG1の舞台です。すべてがこうあってほしいと思い描いたとおりでした」
勝利の味を覚え、完全にひと皮向けた。ドバイ遠征を見据え、余裕を持たせた態勢にもかかわらず、中山記念は好位から堂々と突き抜ける。3馬身半差の圧勝だった。
「しっかりリフレッシュされ、一段とたくましいスタイルになりました。元気があり余っているくらい。それでいて、他馬を見下すような威圧感が出てきたんです。まだまだ良くなる手応えがありましたね」
ドバイデューティーフリーに臨むと、外目を一気に突き抜け、後続を6馬身も置き去りに。国際クラシフィケイションにおいて130ポンドという高評価を得て、日本調教馬では初となる単独トップにランキングされる。
過酷な不良馬場を勝ち切った安田記念での勇姿も忘れられない。凱旋門賞は8着だったとはいえ、ジャパンC(2着)、有馬記念(4着)に関しても、さらなる地力強化をうかがわせる内容だった。
テオレーマ(JBCレディスクラシック)、ダノンザキッド(ホープフルS)、ヴェロックス(皐月賞2着、ダービー3着、菊花賞3着)、ロードマイウェイ(チャレンジC)、アウィルアウェイ(シルクロードS)など、種牡馬入り後も順調に活躍馬を輩出。父に続き、世界に名を轟かせる優駿の登場を楽しみに待ちたい。