サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

シンハライト

【2016年 オークス】高貴な輝きを放つ才能の結晶

 ノーザンファーム早来で基礎固めされていた当時より、クラシックレベルの素質を評価されていたシンハライト。2歳7月、函館競馬場に移動し、まずはゲート試験の合格まで歩ませた。短期間の滞在でも、担当の荻野斉調教助手(石坂正厩舎)は確かなポテンシャルを感じ取っていたという。

「入厩翌日のキャンターから、軽々と動けました。しかも、味わったことがない乗り心地で。兄姉もすばらしい身体能力の持ち主なのですが、イメージはずいぶん異なります。父がスーパーサイアーのディープインパクト。特長を色濃く受け継いだのでしょう。小柄な外見に反し、フットワークが大きく、しなやかに推進できるんです」

 母のシンハリーズ(その父シングスピール)はイギリス産。アメリカのターフ(デルマーオークス)でG1勝ちを成し遂げた。同馬の兄姉にアダムスピーク(ラジオNIKKEI杯2歳S)、リラヴァティ(マーメイドS、福島牝馬S2着)、妹弟にもミリッサ(4勝)、シンハラージャ(2勝)、ライティア(4勝)がいて、石坂ステーブルにとって馴染みの血筋。息長く存在感を示す繁殖であり、半弟にあたるスリーパーダ(現3勝、小倉2歳S)も現役で活躍している。

 NFしがらきを経由し、栗東入りすると、スムーズに出走態勢が整う。10月の京都(芝1600m)で、楽々と新馬勝ちを飾った。たっぷり間隔を開け、紅梅Sは大外一気の決め手を駆使する秀逸な勝ち方だった。

 無傷で重賞制覇がかなったチューリップ賞。桜花賞でも接戦を演じることとなるジュエラーとともに鋭く末脚を伸ばし、いったん前に出られながらもハナ差だけ競り落とした。

「スイッチがオンとなれば、うるささを見せますが、普段は素直。扱いに苦労はありません。鞍上の意のまま、道中は冷静に折り合え、手応え通りの反応でした。放牧先から帰って環境が変わっても、早めに順応できるように。まだ体質が強化されていく途上でしたし、飼い食いの細さに配慮してきたなかでも、しっかり調整できているうえ、レース後の体重減も少なくなりましたよ。着実な進歩がうかがえました」

 桜花賞は2着に敗れたとはいえ、自ら動いて先頭に立ち、ラストも盛り返す渋太さを見せた。その差はわずか2センチ。世代で屈指の実力を示している。

「1、2着が逆になりましたが、3戦続けてハナ差。勝負強さは天性のものです。とても賢く、馬がゴールを知っているかのよう。コースや展開に左右されませんし、距離が延びてもやれる手応えをつかめましたね」

 オークスでも存分に持ち味を発揮。後方から馬群を縫い、鮮やかな逆転劇を演じる。クビ差であっても、堂々たる戴冠といえた。デビュー以来、コンビを組んできた池添謙一騎手は、こう安堵の笑みを浮かべる。

「桜花賞も勝たねばならない舞台でしたので、悔しさを晴らせたわけではありません。でも、ここで改めて能力を証明でき、素直にうれしいですよ。スタートの一歩目が遅く、思ったよりポジションを取れませんでしたが、枠順(3番)を生かしてロスなく立ち回るのは事前に決めていたこと。窮屈な競馬となり、狭いスペースを突いた際、他馬に迷惑をかけてしまったとはいえ、視界が開けたら、すごい脚を使っています。よく交わしてくれましたね。初の長距離輸送など、厳しい条件も克服。まだ進化する途上。将来が楽しみでなりません」

 秋緒戦のローズSも、きっちりと差し切りを決める。絶妙のペースで逃げた2着のクロコスミアとはハナ差だったが、繰り出した上がり(3ハロン33秒7)は次位をコンマ7秒も凌ぐ圧倒的な鋭さだった。ところが、秋華賞を前にして左前に屈腱炎を発症。結局、現役復帰は果たせなかった。

 あまりに早すぎるリタイアだったが、類まれな才能は決して色褪せない。繁殖となったシンハライト(馬名は希少な宝石名より)は、ますます魅力的なきらめきを放ち続ける。セブンサミット(3勝)に続き、多くの逸材を送り出すに違いない。