サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

シェーンヴァルト

【2008年 デイリー杯2歳ステークス】荒々しくも美しい才能の森

 レコードタイムでの決着となった2008年のデイリー杯2歳S。ハイレベルな一戦を豪快な差し脚で制したのがシェーンヴァルトだった。馬だけでなく、鞍上の北村友一騎手、そして、管理する岡田稲男調教師にとっても、これがうれしい重賞初勝利だった。

「今度こそ勝ちたいとの思いがあっても、不思議と冷静でいられたんです。こちらが硬くならなかったのが良かったのかも」
 とトレーナーは振り返る。平常心で臨めたのは、愛馬の才能を信じていたため。そして、目指すべきステージがまだ先にあることを意識していたからに違いない。

「ノーザンファーム早来での育成時からバネが違いましたし、走る手応えは得ていましたよ。函館での新馬(芝1800mを2着)は、メンバー中で最速の上がりを駆使したのに、外を回ったぶん、クビ差の惜敗でした。順当に札幌の未勝利(芝1800m)を勝つことができましたが、札幌2歳Sは抽選で除外。なかなかリズムに乗れなくて、ちょっと歯がゆかったですね。ただし、まだ仕草が幼くて、いかにもやんちゃでしたし、馬体も薄手。調教で追い込むことは避けたかったなか、間隔が開いたことでじっくり仕上げられた。こちらの見立て以上に力を付けていましたよ」

 ジャガーメイル、オウケンブルースリ、トールポピー、トーセンジョーダン、アウォーディーなどをコンスタントに送り出し、大舞台で強さを誇示した光るジャングルポケットが父。母シェーンクライトはフェニックス賞に優勝した早熟の快速馬だが、その父は凱旋門賞馬のエリシオである。サンデーサラブレッドクラブでの募集価格は総額2000万円と比較的リーズナブルだったとはいえ、クラシックも意識できる配合。ドイツ語で「美しい森」と名付けられた。

「父の性格を受け継いで、この仔も気が強い。角田くん(ジャングルポケットでダービーを制した晃一騎手)に訊くと、他馬が好みの牝に近付いたりしたら、たいへんだったらしいですね」

 馬っけに配慮し、デイリー杯のパドックではパシュファイヤーを着用。厩舎内での装鞍も、開業以来、同馬が初めての経験だったという。

「当日も飼い葉をペロリと平らげていましたし、直前輸送は難なくクリア。常に落ち着きを欠くとはいえ、人が好きでじゃれている感じで過剰にイレ込んではいなかった。あんな精神状態を保てれば、もっと伸びたはずなんです」

 レースを重ねるたび、一段とテンションが上がるようになり、折り合いの難しさに悩まされる。皐月賞で4着まで追い上げるなど、非凡な能力を垣間見せながら、結局、以降は未勝利に終わった。去勢されても、集中力は長続きしない。障害戦へもチャレンジした後、7歳時の関ヶ原S(17着)がラストランとなる。

 この世代で最初のG2勝ちを果たしながら、未完成のままでターフを去ったシェーンヴァルト。それでも、青春のエネルギーを一気に爆発させたシーンは、芸術的な美しさを伴って生き生きと蘇ってくる。