サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

シビルウォー

【2013年 名古屋グランプリ】地方を駆け回った衰え知らずのヒーロー

 中身の濃い調教を施すことで知られる戸田博文厩舎。息長く走らせるのが持ち味のひとつである。桜花賞でクラシックの栄冠を勝ち取ったうえ、引退レースの中山牝馬Sを勝利で締めくくったキストゥヘヴン、度重なる骨折を乗り越えて3つのタイトルを奪取したシンゲンなど、プロらしい仕事が次々と思い浮かぶ。

 そんなチームカラーにマッチした一頭がシビルウォー。戸田調教師は、こう懐かしそうに振り返る。
「当初から成功を予感させた素材。すらっと整ったラインは、いかにも芝向きですよ。ところが、3戦目に試したダート1700mで初勝利(3歳6月の福島)。しかも、ありえないと思わせる追い込みでした。目を丸くしましたね」

 父は米2冠の名馬、ウォーエンブレム。受胎率の低さに泣かされながらも、少ない産駒は確実に勝ち上がり、成長力にも富む。母チケットトゥダンス(その父サドラーズウェルズ)はアイルランド産。イギリスで1勝したのみだが、アスタリタSなどアメリカのG2を4勝したミスゴールデンサークルの半姉にあたる。

 昇級後も崩れず、12月の中山(ダート2500m)で豪快なまくりを決めた。4歳シーズンは東京のダート2100mを2勝し、北総Sも勝ってオープン入り。翌夏に関越Sを大外一気に突き抜ける。

「それでも、じれったいレースが多くて。頭が良すぎ、なかなか全力を出してくれないんです。どのポジョンになるのか、どこでスイッチが入るのか、その日の気分次第。調教で気難しいわけではありませんし、これといった対応策も見出せず、ずいぶん悩まされました」

 地方の馬場が合い、6歳になってブリーダーズGCに優勝。後続を6馬身も置き去りにした。白山大賞典もあっさり連勝。JBCクラシック(3着)、浦和記念(クビ差の2着)、東京大賞典(4着)と順調に歩む。

 7歳になっても進化を遂げ、帝王賞を4着に追い込む。そして、マーキュリーCへ。力の違いは歴然だった。いつもより前目の位置に付け、4コーナーで先頭をうかがう。直線はぐんぐん伸び、2着に4馬身、3着とは1秒9も差が開いた。これが生涯で唯一となる1番人気での勝利となった。

「砂が深いコースに良績が集中していましたので、不安材料は脚抜きが良い条件(不良)となったことでした。それなのに、レコードタイムをコンマ7秒も更新。つかみ切れない部分は多く、そのぶんも底知れない可能性を感じさせましたよ」

 続くブリーダーズGCも連覇。JBCクラシックも2着に健闘する。マーキュリーC(2着)、ブリーダーズGC(2着)、白山大賞典(3着)、浦和記念(2着)など、惜敗が続いたものの、8歳の暮れに名古屋グランプリで重賞5勝目をマークした。前半は後方で脚をためていたが、ゆったりしたペースを意識して、2周目のスタンド前で早くも4番手に進出した。先頭を射程圏に入れて直線に向くと、楽々と突き抜けて3馬身差も広げた。

「ずっと追い通しでも、この馬のリズムを守れた結果。交流重賞を5勝もしたのですから、ほんと頭が下がります。コンスタントに出走を重ねても、全力を尽くさないが多く、疲れを持ち越すことなどありませんでした」

 10歳までタフに駆け抜け、ラストランとなったダイオライト記念も5着に食い下がった。全51戦を戦い、11勝をマーク。52・9%の3着内率も誇れる数字である。愛すべきヒーローの武勇伝は、末永く語り継がれていくに違いない。