サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

シックスセンス

【2006年 京都記念】超感覚を駆使してつかんだ貴重な栄光

 ディープインパクトが席巻したジェネレーションにあって、名脇役として愛されたシックスセンス。稀代のスーパーホースと同様、サンデーサイレンスを父に持つ実力派だった。母デインスカヤ(その父デインヒル)はフランスで3勝をマーク。G2・アスタルテ賞に優勝した名牝である。同馬の半弟にデルフォイ(京都新聞杯2着)ら。ミネルヴ賞、ロワイヨモン賞に勝ったシルヴァースカヤ(G1・ATCザメトロポリタンを制したセヴィル、産駒にヴィクティファルスがいるヴィルジニア、種牡馬として成功したシルバーステートの母)が叔母にあたる豪華なファミリー。社台サラブレッドクラブにて総額6000万円で募集された。

 ノーザンファーム空港で順調にペースアップされ、2歳6月、函館競馬場に入厩。7月の新馬(芝1800m)に初登場すると、スタートでふらつきながらも豪快に追い込み、クビ差の2着に惜敗する。2戦目の同条件は余力たっぷりに抜け出し、順当に初勝利を収めた。

 だが、その後の11戦、勝利の女神は微笑まない。それでも、デイリー杯2歳S(8着)はスタート後に挟まれる不利があっての結果。これ以外はすべて4着以内に食い込んでいる。京成杯を2着してクラシックへの切符を手にし、皐月賞でもディープインパクトの2着に健闘した。ダービーは3着、菊花賞も4着。どんな舞台でも確実に末脚を繰り出し、「史上最強の1勝馬」と呼ばれるようになった。

 3歳の暮れには国際G1・香港ヴァーズに挑戦。ウィジャボードの2着して飛躍を予感させた。京都記念に臨むと、未勝利勝ちしたレース以来、久々となる1番人気(単勝1・8倍)に推される。4歳となって馬体に厚みを増し、堂々の主役にふさわしい雰囲気が備わっていた。

 道中は馬群で末脚を温存。前が壁になって勝負どころでも動けなかったが、直線で大外に持ち出すと持ち前の闘争心に火が点く。サクラセンチュリーとの熾烈な追い比べが繰り広げられたなか、ぐいっと首を伸ばしたところがゴール。ハナ差の辛勝とはいえ、繰り出した上がり(3ハロン35秒3)は、メンバー中で最速であり、視覚的にも数字上も、強い勝ち方といえた。ディープインパクトの主戦であり、初めてライバルの手綱を取った武豊騎手も、こう乗り味を絶賛する。

「やっぱり走る馬だよ。前半でちょっと行きたがり、勝負どころではノメるシーンがあったし、本来はもっと切れたはず。良くなる余地もたっぷり残されている」

 同レースをステップに再び香港に渡り、G1(クイーンエリザベス2世C)を狙うプランだった。ところが、右前脚に浅屈腱炎を発症。偉大なライバルに先駆け、スタリオン入りすることとなった。

 錚々たる父の後継が居並ぶため、なかなか繁殖に恵まれなかったシックスセンス。アイルランドに渡って種付けを継続したが、2010年のシーズンを前に事故で骨折する不運に見舞われ、この世を去ってしまった。まだ8歳の若さだった。

 京都記念がやってくるたび、あの勇姿が蘇ってくる。懸命な競走生活が凝縮された一戦。無念のリタイアと引き替えに、勝利への「超感覚」を遺憾なく発揮した瞬間だった。