サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
シュウジ
【2015年 小倉2歳ステークス】振り向くな、後ろには夢がない
JRA通算991勝を挙げたうえ、G1の10勝を含めて重賞96勝という偉大な記録を残した橋口弘次郎調教師。最後に手がけた世代からもタイトルホルダーを誕生させている。小倉2歳Sで2馬身半差の完勝を収めたシュウジのことだ。
「出遅れてしまい、一瞬、ひやっとしたけど、スピードの違いでカバー。安心して見ていられたよ。いろいろな要素に左右されるのが競馬だとはいえ、何度、同じメンバーと走っても、あの時点で負けることはない。それくらい、能力は抜けていた」
高松宮記念を連覇したキンシャサノキセキが父。これが産駒による初のJRA重賞勝ちとなった。母カストリア(その父キングマンボ)はアメリカで未勝利に終わったが、キーンランドのセールで浜本牧場に購入された期待の繁殖。北九州記念を制したツルマルレオンが同馬の半兄にいる。多彩な分野で文才を発揮し、競馬に関する著作も多い寺山修司氏より命名された。
「がっちりした体型は母譲り。当歳のころから筋肉が豊富だったね。ハーツクライ産駒とは思えないほどトモが大きかった兄に似ているが、より伸びやかなスタイル。中身もしっかりしていて、春先にはファンタストクラブからトレセン近郊の吉澤ステーブルWESTへ移り、順調にペースアップされた。5月末に入厩した当初でも、完成度が高く、坂路を楽々と駆け上がれたよ。普段は落ち着きがあり、仕上げも楽。自信を持ってレースへと送り出せたね」
調教の良さをそのまま実戦でも発揮。7月の中京(芝1400m)は3コーナーで押し出されて先頭に立ちながら、ラストは流して新馬勝ちを飾った。中京2歳Sも危なげなく連勝。馬なりでハナを奪うと、長い直線に向いても後続を待つ余裕があり、ラストで3馬身も差を広げた。
「本質的には1200mがベスト。指をくわえて見ているのはもったいないと思い、小倉2歳Sへ向かった。いずれスプリントのG1好勝負を演じられると見ていたよ。ただし、マイルのオープンに勝った時点で、朝日杯FSへのチャレンジも意識。短いところを経験しただけに、ペースによってかかる心配もあるが、ここまでは臨機応変に立ち回れている。重い馬場を苦にしないパワーも兼備しているしね。かつて手がけたセントシーザー(阪急杯、CBC賞、マイルCSを2着)に近いイメージ。やはり迫力満点だった一方、センスの良さである程度の距離まで克服できたもの」
デイリー杯2歳Sは2着。朝日杯FSを5着したところで名トレーナーは引退を迎え、須貝尚介厩舎へ移籍する。ファルコンS(12着)、NHKマイルC(12着)と苦戦したが、函館スプリントS、キーンランドCと連続の2着。スプリンターズSでも4着に食い下がったうえ、阪神Cを制して改めて非凡なポテンシャルを誇示する。
以降は闘志が空回りし、成績は上下動を繰り返す。そんななかでも、ダートへの適性も高く、6歳時の千葉Sを快勝。8歳で現役を退くまで全41戦をタフに戦い続けた。
アロースタッドにて種牡馬入り。強靭なスビートとともに、名トレーナーの魂も未来へと受け継がれていく。産駒たちに「振り向くな、後ろには夢がない」と、寺山修司氏の名言を贈りたい。