サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
シルポート
【2012年 マイラーズカップ】タフにチャレンジを重ねた愛すべきフロントランナー
個性的なフロントランナーとして多くのファンに愛されたシルポート。イングランディーレ(天皇賞・春)やアサクサキングス(菊花賞)をはじめ、スタミナが豊富な活躍馬を輩出したホワイトマズルの産駒である。ただし、母スペランツァは芝1200mで2勝した快速タイプ。同馬の従妹にサウンドオブハート(阪神牝馬S)、カフェブリリアント(阪神牝馬S)らが名を連ねるファミリーだ。出会った当初より、西園正都調教師は卓越したポテンシャルを感じ取っていたという。
「母父サンデーサイレンスの特徴が出ていて、フットワークが柔らかい。当初は切れ味で勝負できると見ていたんだ。普段はとても素直。ところが、走り出すと夢中になりすぎ、とにかく折り合いが難しくて。それで軌道に乗るのに時間がかかってしまった」
3歳1月、京都の芝1400m(3着)でデビュー。初めて先手を奪った6戦目(4月の阪神、芝1400m)でようやく勝ち上がる。8戦目のガーベラ賞は、鮮やかな差し切り勝ち。はまったときの強さは目を引くものがあった。
「あのレースでは、武豊騎手がめずらしくガッツポーズ。手ごわい馬を乗りこなせた達成感があったんだろうね」
11月の東京(芝1400m)では好位から抜け出し、3勝目をつかむ。だが、抑えが利かない傾向は解消されない。
「4歳6月の三木特別(4馬身差の圧勝)で早めに後続を引き離したのをきっかけに、かかったら行かせるパターンを繰り返した。しばらくオーバーペースで自滅していたけど、5歳になってスピード調節を覚え、しっかりと戦法が確立したんだ」
コーナー2つの1800mできっかけをつかみ、難波S、都大路Sと快勝。エプソムC(2着)はわずかハナ差に健闘した。秋以降もコンスタントに出走を重ね、さらに強靭さを増していく。
ファイナルSでマイル戦を初優勝。中9日で臨んだ京都金杯も単騎ですいすい逃げ、後続を振り切った。6歳になり、ついに初のタイトルに手が届く。
「金杯は7番人気(単勝12・0倍)だった。人気薄が走りごろ。逃げ馬の宿命で、どうしても流れに左右される。引き付けすぎてもダメ。でも、手応えがばれずに自分のラップを刻めれば、簡単には止らない。だから、あの馬に関してはできるだけ注目されないよう、強気な発言をしないように心がけていたよ」
東京新聞杯(6着)、大阪城S(6着)と失速したことで、マイラーズCでは単勝18・4倍まで人気が低下。それでも、西園師は密かに激走を予感していたという。マイペースを貫き、後続を大きく離して直線を向いた時点で勝負あり。悠々と栄光のゴールを駆け抜けた。
マークがきつくなり、しばらく低迷したものの、果敢なチャレンジは続く。厳寒期から春先にピークを迎えるのが同馬のバイオリズム。7歳になって中山記念を2着し、この年から京都に場所を移したマイラーズCに駒を進める。仕掛けてハナを奪うと強気にハイラップを刻んだ。前年と同様、3コーナーで引き離しにかかり、芝が生え揃ったインを粘りに粘る。みごとに3つ目の勲章を奪取がかなった。
勝っても負けても、レースの様相を左右させたシルポート。以降もマイルCS(4着)、中山記念(3着)などて見せ場をつくったうえ、ラストランとなった宝塚記念(10着)でも、大逃げを打って場内を沸かせた。
レックススタッドにスタッドイン。産駒は希少だが、金沢競馬が誇る名牝のハクサンアマゾネスを送り出している。
「全54戦、8歳になるまで懸命に走ってくれたことに感謝するしかない。普通の馬がバテるくらいまで使い込んで、まだ上積みがあるのがすごい点だった。ずっと体調が安定していたのは、驚異的な食欲があってこそだよ。飼い葉の時間が近いのを察すると、だらだらとよだれがあふれてくる。まるで野獣のような雰囲気だったなぁ。種牡馬としても、あっと驚かせてほしいね」