サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
シンメイフジ
【2010年 関東オークス】2つの高嶺に登り詰めたミラクルガール
キンシャサノキセキ、ストレイトガールといったスピードタイプだけでなく、クラシックホースに輝いたイスラボニータ、砂戦線へはカネヒキリ、シャトル先での成功作としてもドバイシーマクラシック勝ちのサンクラシークら、長年に渡って多彩なトップホースを送り出したフジキセキ。万能系の遺伝子が生き、ターフとダートの両方で重賞を制したのがシンメイフジだった。
母レディミューズ(その父ティンバーカントリー)もオールマイティなカテゴリーで能力の高さを示している。新馬勝ちはダート1400m。チューリップ賞(2着)、オークス(4着)などの戦績を残した。母の半兄にロードクロノス(中京記念)。祖母はマイルCSをはじめ、重賞を6勝したシンコウラブリイである。
「デビュー当初から完成度が高く、仕上げは楽。早熟かとも思わせましたが、3歳になっても大きな夢を見させてくれた。いつも一所懸命で、ほんとかわいい馬でしたよ」
と、管理した安田隆行調教師は深い愛着を寄せる。
単勝1・6倍の断然人気に応え、2歳7月、阪神の芝1200mを差し切り勝ち。出遅れて直線だけの競馬となり、ダリア賞は半馬身差の2着に終わったが、メンバー中で最速となる末脚(3ハロン34秒9)を駆使した。この試走が次の新潟2歳Sにつながる。武豊騎手も「距離はもっとあったほうがいい」と感触を述べた。
相手が強化された重賞でも、1番人気(単勝3・7)に推される。だが、ここでもダッシュが付かず、位置取りは最後方に。ペースは落ち着き、ラストの瞬発力比べとなる。直線で外に進路を切り替えると、次位をコンマ6秒も凌ぐ32秒9の豪脚を繰り出し、あっさりと馬群を飲み込んだ。
新たにコンビを組んだ岩田康誠騎手は、驚きの表情を浮かべた。
「すごい反応。弾けたね。返し馬で物見をしていたし、案の定、抜け出したら観客席に気を取られていたよ。まだまだ余裕があった」
大切に使われ、阪神JF(5着)へ直行。レースの流れと気持ちが噛み合わず、春シーズンもフラワーC(5着)、桜花賞(6着)、オークス(11着)と不完全燃焼に終わった。
新たな可能性を探るべく、関東オークスに参戦。好スタートを決め、3番手に取りつくと、スムーズに折り合って追走。勝負どころでは持ったままで進出を開始した。あっさりと先頭に踊り出る。後続に1馬身半の差を付け、悠然とゴール板を通過した。
「初めての手綱で責任を果たせ、ほっとしましたよ。ダート戦やナイターの経験がなかったのに、とても乗りやすかった。体が柔らかく、力みがないぶん、2100mの距離もこなせたのでしょう」
と、内田博幸騎手が声を弾ませれば、安田トレーナーも期待以上の強さに満面の笑みを浮かべた。
「オークスの疲れが尾を引くこともなく、状態は絶好。ゲートでふわふわする面があるので、ジョッキーには発馬に注意してほしいとオーダーしたんです。初のダートだけに不安も感じていましたが、完璧に乗ってくれましたので、落ち着いて見ていられましたね。この先へも夢が広がります」
ただし、右前の第1指骨を剥離骨折。以降は骨膜に悩まされることとなる。4歳時のエリザベス女王杯(7着)では大逃げを打って場内を沸かせものの、競走生活の後半は真面目すぎる面も災い。5歳春の中日新聞杯(10着)を走り終えると、繁殖生活に入った。
いまのところ、ロードグラディオ(4勝、地方で現7勝)が代表産駒。様々な魅力が詰め込まれた血脈だけに、さらなる逸材が登場しても不思議はない。