サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アドマイヤコスモス

【2011年 福島記念】一気に咲き誇り、潔く散った秋の大輪

 数々の名馬を育てた橋田満調教師にとっても、アドマイヤコスモスは思い入れが深い一頭だった。こう特徴を話してくれたのが忘れられない。

「父のアドマイヤマックス(05年高松宮記念など)はサンデーサイレンス系でありながら、古馬になって四角い体型となり、スプリント色が強まった。コスモスも同様にピッチ走法なのに、長い距離に対応できるのがすごいところですね。心肺機能がすば抜けているからこそのこと。それに、フォームに上下動が少ないので、推進力をロスしない。母系のスタミナも受け継がれているように感じますよ」

 父だけでなく、母アドマイヤラピス(その父ビーマイゲスト)も橋田厩舎で走った。3000mの嵐山Sを制し、ステイヤーズSも2着。同馬の半兄には全日本2歳優駿の覇者となったアドマイヤホープや、日経新春杯など重賞3勝のアドマイヤフジがいる。

 ノーザンファーム早来での育成時は種子骨の化骨が遅く、脚元がもやもやしがちだった。あせらず固まるのを待ち、3歳の2月に栗東へ。デビュー前より素質の高さは十分に示していた。坂路で51秒3の好タイムを叩き出し、既走馬相手に1番人気を背負って臨んだ4月の阪神、ダート1800m。だが、ここで思わぬ試練が待ち受けていた。出遅れながらも豪快に追い込み、いったん抜け出した瞬間、大きく外に逃げて2着に終わる。しかも、レース中に右後肢を骨折していたのだ。

 未勝利が組まれている間の復帰は不可能だったが、地方・名古屋に移籍後はあっという間に2勝をマーク。カムバックの要件を満たす。

 4歳1月にはいったん帰厩したものの、丁寧に仕上げ直され、5月の二王子特別に向かった。あっという間に抜け出して4馬身差の勝利。赤倉特別、京橋特別と無傷で突き進む。

 3か月のリフレッシュを経て、一段と充実。馬体にぐんと幅が出た。勝ち気で荒々しく、かつては乗り難しさも付きまとっていたのだが、精神面の成長も大きく、操縦性も高まってきた。秋緒戦の大原Sは1分56秒8のレコード勝ち。ラストまでハロン11秒台が連続するなか、楽々と好位から抜け出した。そして、単勝1・9倍の人気を背負い、福島記念(同年は新潟で施行)に登場する。

 荒れた最終週の重馬場へと条件は一転していたが、パワーも豊富。中団を手応え良く追走する。前が開いたタイミングで瞬時に反応し、直線半ばでは早くも先頭。馬体を併せられるシーンもなく、あっさり押し切ってしまった。

「1頭になって遊ぶ面を見せましたが、後ろに馬の気配を感じたら、またエンジンがかかりました。どこまでいっても抜かせなかったでしょう。すごい馬ですよ。本当の勝負はこれから始まります」
 と、パートナーの上村洋行騎手は声を弾ませた。

 常識を超えた勢いで強靭に育ち、重賞でも鮮やかに花を咲かせたアドマイヤコスモス。だが、中山金杯では悲劇が待ち受けていた。レース中に右前を複骨折(数箇所に亀裂が走る骨折形態)する重傷を負う。美浦トレセンの競走馬診療所で緊急手術が施され、近郊の牧場に移動したものの、症状が悪化してしまった。残念ながら、予後不良となった。

 底知れない能力を買われながら、手にしたタイトルはひとつだけ。それでも、同馬が放った斬新な彩りは、名門の歴史にしっかりと刻み込まれている。