サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
サンライズペガサス
【2005年 大阪杯】苦境に耐えて翼を広げた伝説のペガサス
ヴァーミリアン、アストンマーチャン、ジェンティルドンナ、シンハライトをはじめ、9頭ものG1ホースを育てた石坂正厩舎にあって、まとめ役を務めた古川慎司調教助手が、「破格のポテンシャルの持ち主でした。いまだ、あの乗り味を超える馬には出会っていない」と話すサンライズペガサス。大阪杯がやってくるたび、その雄姿が脳裏に浮かぶという。
日本競馬を一変させたサンデーサイレンスが父。母ヒガシブライアン(その父ブライアンズタイム)は不出走だが、その半姉にウェディングケーキ(6勝、京王杯AHを3着)がいる。アメリカでターフの重賞を2勝した曽祖母フリートヴィクトレスに連なるファミリー。同馬も柔軟性に富み、抜群の決め手を秘めていた。
安田伊佐夫厩舎よりデビューし、2戦目の小倉(芝1800m)を勝ち上がったサンライズペガサス。当初はゲートで出遅れるのが常であり、口向きも不安定だった。自己条件(11着)や京都新聞杯(16着)は大敗したものの、石坂正厩舎に移り、徐々に地力を強化していく。
転厩緒戦となった野苺賞をクビ差で辛勝すると、玄海特別や神戸新聞杯でも僅差の2着に健闘。菊花賞(12着)へも駒を進めた。4か月のリフレッシュを経て、ぐんと成長。折り合いの難しさも影を潜める。大阪城Sを豪快に差し切り、続く大阪杯では初重賞制覇を成し遂げた。スローペースにもかかわらず、2着のエアシャカールに2馬身半差を付ける完勝。ラスト3ハロン(33秒8)はレースの上がりを1秒6も凌ぐ、圧倒的なものだった。
天皇賞・春は5着。秋シーズンも毎日王冠(4着)、天皇賞・秋(3着)と健闘したものの、右前脚に浅屈腱炎を発症してしまう。1年のブランクを乗り越え、天皇賞・秋(6着)、ジャパンC(11着)へ。しかし、ここで古傷が悲鳴を上げた。今度は1年3か月も回復を待つ必要があった。
7歳になって再スタート。京都記念は11着に大敗したとはいえ、4歳時に見せた猛々しい闘志は燃え尽きていなかった。中京記念で一変し、大外を懸命に伸びる。ロスなく立ち回った勝ち馬のメガスターダムにコンマ1秒差まで迫った。
3年ぶりに巡ってきた大阪杯の舞台。ファンも強さを忘れていなかった。ハーツクライ(2着)、アドマイヤグルーヴ(4着)よりも支持を集め、堂々の1番人気。パフォーマンスもそれにふさわしいものだった。中団でじっくり構え、直線入り口でも手は動かない。気合いを付けた程度で瞬時に反応し、あっさり抜け出した。
天皇賞・春(14着)は距離延長が堪え、宝塚記念(5着)も勝負どころで狭くなる不利に泣いたが、ペガサスの翼は折れなかった。しっかり英気を養って毎日王冠に臨む。スローペースの好位で流れに乗り、坂の手前では押し出されて先頭へ。テレグノシス(2着)、ダイワメジャー(5着)、スイープトウショウ(6着)ら、豪華メンバーを楽々と振り切り、悠々とゴールに飛び込んだ。天皇賞・秋(12着)、ジャパンC(6着)、有馬記念(7着)と、その後も王道路線を堂々と歩む。
中距離における破壊力では超一流といえたサンライズペガサス。名門ステーブルの礎となり、丁寧なケアを繰り返した陣営に多大な勇気を与えた。種牡馬としては成功せず、2019年、この世を去ったが、苦境に耐えて復活を遂げた伝説のパフォーマンスは、いつまでも鮮烈なインパクトを放ち続ける。