サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
サンライズプリンス
【2010年 ニュージーランドトロフィー】破格のポテンシャルが凝縮された輝かしきトロフィー
JRA総合リーディングサイアーを獲得した翌年(09年)にこの世を去ってしまったのが惜しまれるが、サンデーサイレンスの後継ではエース格の地位を確立し、ダイワスカーレット(有馬記念、桜花賞、秋華賞、エリザベス女王杯)、ディープスカイ(東京優駿、NHKマイルC)、キャプテントゥーレ(皐月賞)など、続々と大物を輩出したアグネスタキオン。故障に前途を阻まれ、G1には手が届かなかったとはいえ、サンライズプリンスも鮮烈なインパクトを残した一頭だった。
母はカナダ生まれのメインリー(その父ワイルドアゲイン、アメリカで2勝)。その全姉にG3・ファイエットSに勝ったウィスキーウィズダム、半妹にもG1・BCジュヴェナイルフィリーズを3着したプライマリーⅢがいる優秀な一族である。
数々の名馬を育ててきた音無秀孝調教師も、デビュー前から破格のポテンシャルを感じ取っていた。
「大柄な馬体に配慮され、下河辺牧場での育成時は大切に育てられた。2歳の秋くらいになってたくましい筋肉が備わり、めきめきと評判が上昇。暮れに栗東へ移動してからも、楽々と動けたからね。実質2本の追い切りだけで出走させたが、それでも勝てる手応えがあった」
中京の新馬(芝2000m)に臨むと、後続を9馬身もちぎるワンサイド勝ち。上積みは大きかった。続くビオラ賞も好位から楽々と抜け出し、3馬身半差の完勝を収める。一躍、クラシック候補に踊り出た。
だが、スプリングSではスタートで躓き、あと一歩の4着。最速タイの上がり(3ハロン34秒9)を駆使しながら、皐月賞への出走権を確保できなかった。ニュージーランドTに目標を切り替える。初のマイルとなるうえ、距離ロスが大きな16番枠を引いたのにもかかわらず、1番人気(単勝3・4倍)に推された。
ここでも出遅れたが、終始、外を回しながら、向正面から進出。コーナーで2番手に取り付く。強引な仕掛けに映ったものの、直線でも伸び脚は衰えない。後続を寄せ付けず、悠々とゴールに飛び込んだ。
「フットワークが大きく、ちょっと器用さには欠くけど、じわっと上がっていけた。長く脚が持続するよ。まだ体型も幼く、良化途上なのに、この勝ちっぷりだからね。素質は相当」
と、初騎乗となった横山典弘騎手も乗り味を絶賛した。
ダノンシャンティと人気を二分したNHKマイルCは4着に敗れたが、1000m通過が56秒3というハイペースの2番手を追走したもの。よく踏み止まっている。
「例年以上に整った馬場状態。日本レコードが出ても不思議はないと見ていたし、時計勝負にも対応できるタイプだよ。前走と同様、早めに動くのは作戦どおりただ、外から来られ、引くに引けないかたちになってしまった」(横山騎手)
全力を尽くした反動が出てしまい、右前に浅屈腱炎を発症してしまう。2年4か月ものブランクを経て、小倉日経オープン(13着)でカムバックを果たした。思い出の中山で闘志を取り戻し、復帰4戦目となるニューイヤーSを3着。ただし、ここで脚元が限界に達した。わずか9戦でターフを去ることとなる。
ニュージーランドトロフィーを1分32秒台で駆け抜けたサンライズプリンス。記録に残る名馬であるとともに、その秀逸なパフォーマンスの記憶もずっと色褪せない。