サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
サングレーザー
【2018年 札幌記念】栄光を目指して加速する煌びやかな彗星
G1サラブレッドクラブにて総額4000万円で募集されたサングレーザー。スーパーサイアーのディープインパクトが父であり、母マンティスハント(その父デピュティミニスター)もゴーハンティング(4勝)、クロスボウ(5勝)、バイマイサイド(現3勝)ら、コンスタントに勝ち馬を送り出している。祖母はアメリカ生まれのウィッチフルシンキング。パカラップS、ジャストアゲイムH、イーゴンマイルS、ニジャナSと重賞を4勝した。その産駒にはロフティーエイム(福島牝馬S)、メーデイア(JBCレディスクラシックなど重賞を6勝)も名を連ねる豪華な血脈である。
追分ファーム・リリーバレーでの育成は順調に進み、早くも2歳7月、中京の芝1600m(3着)でデビュー。出遅れを跳ね返し、札幌の芝1800mを快勝すると、デイリー杯2歳S(3着)、ホープフルS(5着)でも健闘する。白梅賞(9着)に関しては、鐙が外れて制御できなかった結果。阪神の芝1600m(2着)もクビ差で惜敗したが、折り合いの難しさに配慮のうえ、続く京都では芝1400mへ距離を短縮したところ、見違えるような差し脚を発揮。待望の2勝目を手にする。
サングレーザー(太陽の近くをかすめるように通る彗星の意味)との名にふさわしく、栄光を目指して加速を開始。道新スポーツ賞、仲秋Sと連勝を飾ったのみならず、ノンストップでスワンSの制覇がかなった。初挑戦となったGIのマイルCSコンマ1秒差の3着に食い下がる。阪神C(3着(3着)でもメンバー中で最速となる上がり(3ハロン33秒5)で追い込み、4歳シーズンに希望をつないだ。
圧巻だったのはマイラーズC。次位をコンマ5秒も凌ぐラスト33秒2の豪脚を炸裂させ、直線一気に突き抜ける。タイムは1分31秒3のレコードだった。持ち味をフルに引き出した福永祐一騎手は、こう安堵の笑みを浮かべた。
「流れが向き、ポジション取りもうまくいったとはいえ、攻め馬からフォームが良化。想像以上に成長を遂げています」
安田記念は5着。外枠(15番)を引き、意識的に前目で運んだ結果、「なし崩しに脚を使ってしまった」と、福永ジョッキーは唇を噛み締める。陣営が反撃の舞台に選んだのは札幌記念。洋芝向きのパワーも兼備したタイプだとはいえ、2000mの克服が鍵となった。
中団の馬群でリズムを守っていたものの、前半3ハロンが34秒4だったのに対し、ラストは37秒6を要するレースの流れだった。ハードな消耗戦のなか、直線で様相が一変。後退する先行勢に前を阻まれ、外から待機勢も迫ってくる。それでも、狭いスぺースをさばき、渋太く伸びた。大接戦をハナ差で制し、価値ある3勝目のタイトルを手中に収める。
「距離延長を意識して出たなりに追走。ずっと手応えは良く、窮屈な場所でも我慢が利きましたよ。最後に開いたのは1頭分。満足に追えなかったのに、馬が応えてくれた。選択肢を広げることができ、ほっとしています」(福永騎手)
天皇賞・秋(2着)、香港C(4着)と果敢にチャレンジ。翌春の大阪杯(12着)は4コーナーでバランスを崩し、力を出し切れなかったが、安田記念で5着に盛り返す。5歳時の札幌記念はクビ差の2着。しかし、レース後、右前内側の種子骨靭帯に炎症が確認される。約1年に渡って懸命な立て直しが図れたが再起はかなわなかった。
優駿スタリオンステーションで種牡馬入り。あと一歩で届かなかったG1の夢は次世代へと引き継がれる。きっと産駒たちも、彗星のごとく煌びやかなパフォーマンスを演じるに違いない。