サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
サトノルパン
【2015年 京阪杯】大胆不敵に妙技を繰り出すターフの怪盗紳士
2歳11月の京都でデビューすると、3着、2着と着順を上げたサトノルパン。阪神の芝1600mではレースの上りを1秒2も上回る末脚(3ハロン34秒3)が炸裂し、3馬身半も突き抜けた。
父は日本競馬を目覚ましく発展させたディープインパクト。母エリモピクシー(その父ダンシングブレーヴ)は7勝を挙げ、重賞での3着が3回もある。その全姉にはエリザベス女王杯を制したエリモシックもいて、底力に富む一族。同馬の半兄にリディル(デイリー杯2歳S、スワンS)、クラレント(デイリー杯2歳Sなど重賞を6勝)、レッドアリオン(マイラーズC、関屋記念)がいる。
「魅力的な血統に違わぬ垢抜けたバランス。ディープらしさが前面に出ていて、エクセルマネジメントでの育成中にひと目見た瞬間から、軽さや切れ味が伝わってきましたね。ただ、入厩した当時も、トモが高く、き甲も抜けず、幼い雰囲気。普段は大人しく、走るとなれば前向きだけに、仕上げに苦労はなかったのですが、先々を考え、大切に態勢を整えました。本格化は先と見ていましたよ」
と、村山明調教師は若駒当時を振り返る。
きさらぎ賞(6着)を経て、東京の芝1400mで2勝目。33秒0の決め手を爆発させ、直線一気を決めた。ファルコンSもわずかクビ差の2着。NHKマイルC(9着)は、道中で折り合いを欠いたのがすべて。ダービー(14着)へも駒を進めた。
ポートアイランドS(4着)、オーロC(3着)と、秋シーズンも着実に前進。タンザナイトSでは大外を鮮やかに突き抜け、非凡な瞬発力をアピールしている。
「軽めのキャンターではまったく問題ないのですが、速いところではムキになりがちです。ぴりぴりさせないように注意し、この馬ならではの長所を伸ばすべく、ソフトな攻めに終始。課題のゲートに関しても、無理に矯正せず、気持ちを傷付けない程度に練習し、いいほうへ向っていましたしね。六甲S(2着)は直線で不利を受け、京王杯SC(6着)や米子S(8着)も不向きな展開に泣いたとはいえ、だいぶ折り合いの難しさが改善されつつありました」
夏場のリフレッシュを経て、道頓堀Sより再スタート。初となる1200mだったが、高い適性を示す。レースの選択肢を広げられ、その後につながる一戦となった。スワンS(8着)は不完全燃焼に終わったが、京阪杯では狙い通りに好位で脚をためられた。断然人気に推されたビッグアーサーの猛追をアタマ差で退け、栄光のゴールに飛び込む。
「スプリントへの参戦は以前から構想にあったのですが、もうしばらくは条件を替えずにレースを覚えさせたかったんです。いずれ積み重ねが生きてくると信じていました。ずいぶん歯がゆい思いをしたとはいえ、秘めたポテンシャルは超一流。それを証明でき、ほっとしましたよ」
さらなる高みを目指したサトノルパンだったが、結局、これが最後の勝利。シルクロードS(6着)、高松宮記念(18着)、キーンランドC(8着)、スプリンターズS(7着)、スワンS(2着)、マイルCS(18着)と、成績は激しく上下動した。それでも、苦節の末に放った京阪杯での輝きは、トレーナーの目にくっきりと焼き付いたままである。