サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
サトノダイヤモンド
【2016年 菊花賞】遥か先のゴールを照らすダイヤモンドの輝き
セレクトセール(当歳)にて2億3000万円で落札されたサトノダイヤモンド。父ディープインパクトは、歴代トップのG1勝利数を誇る日本競馬の至宝。母マルペンサ(その父オーペン)もクリアドレス大賞、ヒルベルトレレナ大賞、銀杯大賞とアルゼンチンのG1を3勝した名牝であり、同馬の妹弟にあたるリナーテ(6勝、重賞での2着が2回)、マルケッサ(ドゥラエレーデの母)、サトノジェネシス(3勝)も卓越した才能を受け継いでいた。
誰もが見惚れる美しいシルエット。出会った当時でも、池江泰寿調教師はクラシックのみならず、凱旋門賞への挑戦を意識していたという。
「ノーザンファーム空港での育成時も、トップクラスとの評価は揺るぎませんでした。ダイナミックにフォームを伸ばせます。ただし、ゆったりしたつくりをしているだけに、若駒当時は緩さも目立ちましたので、じっくりと筋力アップを図り、入厩前よりダービーから逆算した調整過程を踏ませたんです。生まれ持った素質だけで、狙い通りにクラシックへの道が開けました」
2歳11月の京都で迎えた新馬(芝2000m)を楽々と抜け出すと、暮れの阪神(芝2000m)も完勝。さらに、きさらぎ賞を3馬身半差で突破する。だが、皐月賞は不利を受けて3着。ダービーもわずかハナ差の2着に泣いた。
それでも、秋シーズンに一段と充実。神戸新聞杯を順当勝ちして菊花賞へ駒を進める。中団から持ったままでポジションを上げ、あっさりと勝負を決めた。後続に2馬身半の差を広げ、世代のトップに君臨する。クリストフ・ルメール騎手は、こう声を弾ませた。
「とてもエキサイティング。私にとって日本で初となるクラシックの勝利。この馬も、オーナーも、G1勝ちは初めてです。まだ若いとはいえ、これまででも最高のコンディションでした。この距離に心配はありましたが、とにかく乗りやすい馬です。最後まで集中力が持続し、直線の反応も抜群。あの時点で負ける気がしなかった。この先のチャンピオン決定戦でも強さを発揮してくれるでしょう」
長丁場を走り切っても、余力はたっぷり。キタサンブラックと僅差ながら、有馬記念でも1番人気(単勝2・6倍)を背負うこととなる。そして、3歳にして最高位の輝きを放つ。早めに引き離しにかかるライバルに渋太く食い下がり、きっちり捕えたところがゴールだった。
「キタサンブラックは馬体が合ってからひと伸びするので、離れたところから交わしてほしいと伝えていたんです。うまくいきました。古馬のトップホースを相手に勝つことができたのはトレーナー冥利に尽きます」(池江調教師)
翌年は阪神大賞典に優勝し、天皇賞・春に向かう。しかし、最後にひと伸びできずに3着。「本来は追ってから重心が低くなり、もっと前肢を伸ばせるのに。賢い馬だけに、硬い馬場に気を遣い、力を尽くしていないのは明らか」というのがトレーナーの見立てだった。
宝塚記念を自重して、万全を期したフランス遠征。待ち構えていたのは過酷な重馬場だった。フォア賞(4着)に続き、凱旋門賞も15着に敗退した。心身のリズムが狂い、金鯱賞(3着)、大阪杯(7着)、宝塚記念(6着)と足踏み。京都大賞典に勝ち、地力の違いを示したが、ジャパンC(6着)、有馬記念(5着)とも不完全燃焼に終わる。早々と引退が決まり、社台スタリオンステーションで種牡馬となった。
進化の途上でターフを去ったサトノダイヤモンドだが、日本競馬史上でもダイヤモンド級のポテンシャルを秘めていたことは疑いない。父の後を追い、サトノグランツ(京都新聞杯、神戸新聞杯)、シンリョクカ(新潟記念)が重賞制覇を果たした。新たな宝石の登場が楽しみでならない。