サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
サトノクラウン
【2017年 宝塚記念】次世代へと継承される輝かしきクラウン
ドゥラメンテ、キタサンブラックら、実力派が揃った2012年生まれの世代。両馬とも種牡馬として成功し、日本競馬の発展に寄与しているが、サトノクラウンも早くから頭角を現した天才肌である。ファーストクロップより日本ダービー、クイーンエリザベスⅡ世Cを制したタスティエーラが登場した。
2歳10月の東京で順当に新馬勝ちを収めたサトノクラウン。いきなり高いハードルに挑み、東京スポーツ杯2歳Sでも鋭い末脚を爆発させる。なかなか前が開かないなか、ラスト100mでの大逆転。騎乗したライアン・ムーア騎手も、「まだ成長途上なのに、反応がすばらしい。来年のクラシックでも通用する」と能力を高く評価した。
「フットワークの良さは抜けていて、素質だけで重賞に手が届きました。ただし、心と体のバランスが整っていない状況。まだ精神的に幼く、カリカリしたり、気を抜く素振りも目立ちましたので、負担をかけすぎないように配慮。どちらかといえば、本来は晩成タイプと見ていました」
と、堀宣行調教師は当時を振り返る。
父はラストタイクーンの後継であり、数々のトップホースを輩出したマルジュ。日本でもマルセリーナ、グランデッツァの母父として馴染みがある。魅力的な血統背景の持ち込み馬。セレクトセール(1歳)にて5800万円で落札された。母ジョコンダⅡ(その父ロッシーニ)はアイルランド産。2勝をマークし、愛G3・キラヴランSでも3着に健闘している。同馬の全姉に英G1・チヴァリーパークSや愛G3・ラウンドタワーSを制したライトニングパール。サトノヴィクトリー(2勝)、ポンデザール(5勝)、フィリオアレグロ(現3勝、共同通信杯3着、青葉賞3着)、シテフローラル(現2勝)ら、弟妹たちも堀厩舎で活躍している。
だが、2走目はゲートで立ち上がり、発走調教再審査の制裁。いったんノーザンファームしがらきへ移り、リフレッシュが図られた。入念な立て直しが功を奏し、弥生賞を完勝。イメージを一新する好位からの抜け出しでクラシックの有力候補に踊り出る。しかし、皐月賞は進出を開始した4コーナーで外へと大きく張られ、6着に敗退。出遅れが響き、ダービー(3着)でも僚馬のドゥラメンテに先着を許した。
春シーズンの疲れが尾を引き、天皇賞・秋は17着に終わる。しっかり態勢を整え直した4歳時の京都記念を快勝したものの、調子は長続きせず、クイーンエリザベス2世C(12着)、宝塚記念(6着)、天皇賞・秋(14着)と連敗。しかし、2度目の香港遠征では精神的な落ち着きを取り戻し、みごとに香港ヴァーズを差し切った。
帰国初戦の京都記念を連覇すると、大阪杯(6着)を経て、宝塚記念へ。戴冠を夢みてクラウンと名付けられた大器は、ついに国内でもG1制覇を果たす。
「超うれしいです。競馬の前、堀先生へも、キタサンブラックを見ながら競馬ができたら、簡単かもしれないって話していたんだ。本当にそうなった。キタサンブラックはすごい強い。去年の宝塚記念もドゥラメンテと戦ったし、何度も一緒に走っている。あの馬をマークしながら運べて、サトノクラウンも気持ちが乗っていた。4コーナーの感触がすごく良かった。やっぱり、こんな馬場(やや重)が合う。直線は馬なりで伸びたね。気持ち良かった。さすがG1ホース。香港ヴァーズで負かしたハイランドリールがアスコットのG1に勝ったし、能力には自信を持っていたんだ」
と、ミルコ・デムーロ騎手は喜びを爆発させた。
堀トレーナーは「勝因は状態に尽きます」と冷静に口を開き、こう舞台裏での緻密な取り組みを明かした。
「大阪杯でいい結果が出ず、リベンジとしてスタッフも取り組み、それが実りました。長距離輸送への対策を立て、輸送会社や阪神競馬場の業務課へも要望を出し、無理を聞いてもらったんです。移動は前々日。馬運車の枠を広めにして、ストレスの軽減に努めました。出張馬房も関東馬のエリアではなく、関西馬の当日滞在用を割いてもらいました。先週に検証して、兵庫で行われている選挙のアナウンスが響かない場所を指定したんです。その結果、メンタルのフレッシュさを保てましたね。まだ環境の変化に弱いなかでも、少しずつ馬も成長し、なんとか対応してくれました。
ゲートに課題がある馬ですが、大外枠でしたので、ジョッキーも乗りやすかったと思います。流れが落ち着いたところで動いていき、他馬も行き出したので、この馬向きの流れに持ち込めた。抜け出してソラを使う面も、きちんと対処。4コーナーを手応え良く回ってきた段階で、安心して見ていられましたよ」
過酷な不良馬場となった天皇賞・秋は、キタサンブラックにわずかクビ差の惜敗。全力を尽くした反動は大きく、ジャパンC(10着)、有馬記念(13着)、ドバイシーマクラシック(7着)、宝塚記念(12着)と苦戦が続く。6歳時のジャパンC(9着)がラストランとなった。
トップサイアーが居並ぶ社台スタリオンステーションで供用されているが、立ちはだかる強敵を撃破して勝ち取ったグランプリの栄冠は、いつまでもまばゆい輝きを放ち続ける。タスティエーラのさらなる活躍に加え、続く産駒たちへも注目が集まる。