サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

サトノアーサー

【2020年 関屋記念】破格の決め手を駆使した猛々しき勇者

 セレクトセール(1歳)にて1億9500万円もの高額で落札されたサトノアーサー。池江泰寿調教師は、こう若駒当時を振り返る。

「母キングスローズ(その父リダウツチョイス)は、GⅠ・CJCニュージーランド1000ギニーなどに優勝した期待の繁殖。セールの下見でチェックした段階でも、柔軟でバネにも富み、父ディープインパクトの特長をストレートに受け継いでいました。母にとって初仔ながら、デビュー前後になって薄かったルックスにぐんぐん幅も出て、バランス良く育ちましたしね。慎重に成熟を待ち、大切にステップを踏んだなかでも、もともと反応は抜けていましたよ」

 新馬(阪神の芝2000m)は同着での勝利だったが、シクラメン賞で3ハロン32秒7の末脚が炸裂。3馬身半も差を広げた。不得手の重馬場に泣き、きさらき賞は2着。毎日杯も2着だったものの、勝ったアルアインを1秒0も凌ぐ上がり(33秒3)を駆使している。

「ダービー(10着)は特殊な展開に泣きました。トップレベルの切れ味は実証済みなのに、課題はテンションの高さにあり、なかなかフルにポテンシャルを発揮できません。流れるペースなら、コントロールしやすいのですが、以降も自分との闘いが続きましたね」

 神戸新聞杯は3着。積極的なポジション取りがかなった反面、行きたがったのが響いた。菊花賞(11着)でも折り合いを欠く。距離を縮めて復調を示し、リゲルSを2着した後、洛陽Sを順当に差し切った。

 メイSは3着だったものの、大外から鋭く脚を伸ばした。そして、エプソムCへ。大外枠を引いたが、馬場は重。好位でリズムに乗れたうえ、芝の荒れていないところを選んで走り、みごとに抜け出す。ついに待望の重賞制覇がかなった。

 さらなる前進が予感されたものの、毎日王冠(6着)を走り終え、捻挫による1年のブランク。ポートアイランドS(2着)、キャピタルS(6着)、東京新聞杯(4着)、大阪城S(3着)、六甲S(2着)、都大路S(3着)、エプソムC(6着)と善戦しながら、なかなか勝利に手が届かなかった。

 2年2か月ぶりに復活を遂げたのが関屋記念。出遅れて位置取りを悪くしても、戸崎圭太騎手は慌てずにインで脚をためる。直線もロスなく内目を突き、満を持して追い出された。瞬時に馬群を割り、後方一気の末脚が炸裂。逃げたトロワゼトワルを悠々と交し去ってゴールに飛び込んだ。痛快な逆転劇にジョッキーの声も弾む。

「あんな後ろになったのは想定外。でも、気持ちを切り替えて運びました。道中の手応えは絶好。決め手には自信を持っていましたし、新潟は直線も長いので、なんとかなるんじゃないかと。乗り難しい馬ですが、うまく長所を引き出せましたね。それにしても、強かった」

 全力を尽くして馬も満足したのか、徐々に闘志が薄れていく。以降の8戦は奮わず、8歳時のマイラーズC(9着)がラストランとなった。それでも、あまりにも鮮やかだった関屋記念のパフォーマンスとともに、猛々しき勇者の伝説は後世へと語り継がれていく。