サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

サダムパテック

2010年 東京スポーツ杯2歳ステークス】明るい未来を予感させる若き日の閃光

 2歳9月、栗東に入厩した時点でも、完成度の高さが光っていたサダムパテック。1週間でゲート試験をパスすると、実質2本の追い切りで翌月の新馬(京都の芝1600m)に向かう。ここは2着に敗れたが、上がり33秒5の瞬発力を示した。

「父はスピードが豊かなフジキセキ。堅実な血統背景に惹かれたんだ。でも、セレクトセール(1歳)ではひと声で落札(購買価格は1200万円)。当時は見栄えがしなかったからね。ひょろひょろした薄い馬体。キリンみたいだった。それが、2歳の年明けに育成先のノーザンファーム空港へ見に行ったら、ぐんと幅が出て、まるで別馬。成長力にびっくりさせられたなぁ」
 と、西園正都調教師は幸運な巡り会いを振り返る。

 母サマーナイトシティ(その父エリシオ)は、ダートの短距離で3勝をマーク。同馬の半妹にあたるジュールポレール(ヴィクトリアマイル)も、トレーナーにG1の喜びを運んだ。英3勝、北米2勝のダイアモンドシティが祖母。母の半兄に米G2での2着が3回あるカティナスなどが名を連ねるファミリーである。

 中1週の同条件を順当勝ち。東京スポーツ杯2歳Sも直線で一気に抜け出し、後続に3馬身半の差を付けた。トレーナーもスケールの違いを確信したという。

「デビュー前から、これまで手がけた馬のなかでも最高の逸材だと確信。もともと稽古の動きが桁違いだった。背中を使ってゆったり走れるうえ、初めてウッドで追ったら、6ハロンから80秒、終いも12秒台だもの。フラットコースでは時計が出すぎるから、脚が長いこの馬には加速しにくい坂路で仕上げるようにした。血統のイメージに反し、普段は素直で大人しく、調整は楽。デビュー戦では柴田善臣騎手が『来年は大きなところへ行けますよ』と言ってくれたし、2戦目以降の3走に騎乗したクリストフ・スミヨン騎手だって、『すごくいい。次も乗りたい』と絶賛してくれたよ。あれほどの脚を繰り出しても、ソエなどの心配はなく、レースが負担になっていない感じ。恐るべきポテンシャルの持ち主だと思わせた」

 朝日杯FSはスタート直後に接触する不利を受け、コンマ2秒差の4着に惜敗。3歳緒戦は王道の弥生賞を選択した。スローペースの中団できちんと折り合い、直線の追い比べを難なく押し切った。

「また成長を実感。体重はプラス10キロでも、放牧から帰ってきたら背が伸び、その時点より10キロ絞れていた。ゲートはふわっと出るけど、だんだん覚えていくもの。押していかなくても逆転できる力もあったしね。特に練習もせず、馬のリズムを崩さないことだけに集中した結果だった。朝日杯の無念を晴らすことができ、その先へも夢がふくらんだよ」

 しかし、生まれた時代が悪かった。皐月賞は本格化したオルフェーヴルの2着。ダービーでもトリプルクラウンを達成する名馬に次ぐ支持を受けたものの、7着に敗れる。秋初戦のセントライト記念は、あと一歩の3着。なかなかリズムに乗れず、東京新聞杯(13着)まで7連敗を喫した。

「距離の不安を感じていた菊花賞(5着)だって、向正面で折り合っているのを見て、勝てると思ったくらい。ただ、鳴尾記念(3着)以降は目に見えない疲れがあった。あえて日にちを区切らずに、ノーザンファームしがらきでリフレッシュ。その効果で立ち直ってくれたんだ」

 久々に勝利を飾ったのが京王杯SC。初の1400mだっただけに、加速に手間取り、勝負どころの反応もひと息だったが、ゴールまで力強く伸びた。幅広い条件に対応できる個性であっても、フジキセキ産駒らしさが際立ってきた。

 安田記念(9着)は、レコードタイムの高速決着。鋭さを欠き、1番人気を裏切ってしまう。それでも、あせらずに夏場を休養に充てたことで、再び輝きを取り戻した。秋2戦目のマイルCSをみごとに制覇する。香港マイル(6着)を戦い終え、しばらくは低迷。だが、果敢なチャレンジが実を結び、6歳時の中京記念に優勝。改めて底力をアピールしている。

 種牡馬としては目立った活躍馬を送り出せず、韓国に輸出。2022年、14歳にて天国に旅立ってしまった。それでも、東京スポーツ杯2歳Sより28戦連続で重賞に挑み、懸命なファイトを燃やした姿は、多くのファンの目にしっかりと焼き付いている。