サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アドマイヤグルーヴ

【2003年 ローズステークス】豪華に血筋を発展させた生まれながらのG1ホース

 2021年8月31日、右前の蹄を負傷して療養中だったドゥラメンテが、X大腸炎(急性出血性大腸炎。血液が著しく濃縮し、脱水状態となる。原因が不明のため、『X』と名付けられている)により急逝した。競走時代に管理した堀宜行調教師が記した追悼文には、痛恨の思いが詰め込まれている。

「これまでも強い精神力で困難に打ち勝ってきた馬だけに、今回の事態も克服してくれるものと揺るぎない信頼を寄せていたのですが、突然の訃報に驚きました。いくら言葉を尽くしても伝えられないほど、深い悲しみのなかにいます。最高のサラブレッドの一頭であり、優秀な後継を残してほしいと願っていましたので、まだ9歳と若いのにもかかわらず、前途が絶たれたのが残念でなりません」

 ハイレベルな世代にあって、春のクラシック2冠を完勝した天才肌だったドゥラメンテ。2歳夏にゲート試験をパスした段階でも、「生まれながらのG1ホース」と堀トレーナーは評していた。その圧倒的な爆発力は、アドマイヤグルーヴからストレートに受け継がれたものである。

セレクトセール(当歳)にて、牝としては当時の最高価格となる2億3000万円で落札されたアドマイヤグルーヴ。日本の競馬を一変させたトップサイアーのディープインパクトが父であり、母は年度代表馬のエアグルーヴ(オークス、天皇賞・秋など重賞7勝)。初仔の同馬に続き、弟妹にあたるフォゲッタブル(ステイヤーズS、ダイヤモンドS)、ルーラーシップ(クイーンエリザベスCなど重賞5勝)、グルヴェイグ(マーメイドS)もタイトルホルダーに輝いた。祖母ダイナカールもオークス馬という華麗なファミリーである。

「大きな夢を託すのにふさわしい素材。デビュー前より、G1を意識させられたね。しなやかさやバネが抜けていたもの」
 と、大切に素質を磨き上げた橋田満調教師は振り返る。数々の名馬を手がけたベテランにとっても、最強の女王だった。

 単勝1・2倍の支持を集め、2歳11月、京都の芝1800mでデビュー。順当に初勝利を収める。エリカ賞も悠々と抜け出し、一躍、クラシック候補に踊り出た。3か月半の間隔を開け、じっくりと力を蓄える。あえて牡馬相手の若葉Sをステップに選択。良化途上の段階だっただけに、ここはハナ差の辛勝ではあったが、青写真どおりに未来が拓けた。

 ただし、桜花賞はゲートで突進しそうになり、下げたところでスタート。後方から猛然と追い込みながら、3着に終わる。オークスも枠内でテンションが上がり、コントロールが利かなかった。断然人気を裏切り、7着に沈んだ。

 夏場の休養を経て、ローズSへ。ゲートでは落ち着きを欠いたものの、道中はスムーズに好位で折り合う。逃げたヤマカツリリー(1馬身差の2着)が軽快にラップを刻み、大きく差を広げて直線へ。しかし、エンジンがかかってからの伸び脚が違った。楽々と捕らえ、鮮やかに初のタイトルを手にする。

「春は非凡な能力を発揮できずに辛かった。感受性が強く、いざとなったら激しい一面を垣間見せる。扱いや乗り方に難しさがあって。それでも、普段の調教からきちんと対処していけば、いずれトップに立てると信じていたよ。先々を見据えた仕上げだったのに、すばらしいパフォーマンス。将来に自信を深めることができた」

 秋華賞(ハナ差の2着)でもメンバー中で最速の上がり(3ハロン34秒8)をマークしたものの、スティルインラブが巧みなレース運びで巻き返しに成功。目標で力を出し切った3冠馬とは対照的な歩みではあったが、以降は一気に輝きを増していく。

 エリザベス女王杯でも3歳の2強が激突。ゲートインまで耳覆いを二重にするなどの工夫も実り、これまで以上に好発進が決まった。スムーズに折り合いも付く。直線の追い比べをハナ差だけ退け、ついにG1のタイトルを奪取した。

 4歳シーズンも大切に才能を磨かれていく。大阪杯(7着)、金鯱賞(5着)と牡馬の壁に阻まれたが、マーメイドSを楽勝。夏場のリフレッシュを経て、京都大賞典(4着)、天皇賞・秋(3着)と、着実に状態を上げていった。

 2度目のエリザベス女王杯でも会心の走りを披露。離れた2番手を進んだオースミハルカが絶妙のタイミングで抜け出したが、それを目がけて抜群の末脚を駆使する。きっちり交わしてゴールに飛び込んだ。

 大阪杯(4着)、天皇賞・春(11着)、金鯱賞(4着)、宝塚記念(8着)と、翌春は苦戦が続いたが、天皇賞・秋(17着)を使って再び調子を上げ、エリザベス女王杯で3着に反撃。引退レースとなった阪神牝馬Sを堂々と勝ち切り、惜しまれつつターフを去った。

 繁殖成績も優秀であり、アドマイヤテンバ(4勝)、アドマイヤセプター(5勝、京阪杯2着)らが活躍。ところが、12歳にして胸部出血を発症し、この世を去ってしまった。天国の母に後押しされ、飛躍した最後の産駒がドゥラメンテ。史上初となる母仔4代連続のG1勝利を達成することとなる。さらなる母系の発展を願うとともに、残されたドゥラメンテ2世からも、ぜひサイアーラインをつなぐ逸材が登場してほしい。