サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
サウンドリアーナ
【2012年 ファンタジーステークス】美しく響き渡るディーバの歌声
セレクションセール(1歳)にてJRAが1000万円で購買した金の卵がサウンドリアーナ。翌春のブリーズアップセールでは騎乗供覧でラスト11秒6、11秒2の好時計をマークし、2200万円の値が付いた。管理した佐藤正雄調教師も、早くから確かな才能を認めていた。
「落札後はいったん浦河のグランデファームに移動。そこで初めて対面した時点で、きちんと鍛えられていたからね。たくましい雰囲気だった。栗東への入厩からデビューまで1か月。目一杯に仕上げなくても、調教の動きは抜けていたよ。一瞬のスピードだけでなく、この血統らしいパワーもあり、力が要る坂路でもフォームが崩れないんだ」
父はゴーンウエストの後継であり、米G1を3勝したケイムホーム。母オテンバコマチ(その父ダンシングブレーヴ)はダート短距離で2勝をマークしている。
7月の中京、芝1400mでデビュー。出遅れて後方を進みながら、直線で外に出すと荒れたターフをものともせずに抜群の末脚を爆発させた。アタマ差の辛勝ではあったが、非凡な才能は十分に示していた。
「レースを使われてから、体調がぐんと上向いた。暑くなっても毛が長いままだったのに、ようやく張り艶が良くなってね。飼い葉もあっという間に平らげてしまう。新潟2歳Sはプラス20キロで臨めた。輸送はまったく堪えないとはいえ、こちらを出発する前とほとんど同じ体重だったのには驚かされたなぁ。でも、500キロ近くでセールに上場されていた馬だから。太め感はなかったよ」
レコードタイムでの決着となった新潟2歳S。後方で脚をためた牡馬2頭に交わされたとはいえ、好位からアタマ+半馬身差の3着に食い込んだ。だが、デイリー杯2歳Sはスローペースに引っかかり、向正面で抑え込んでいるうちに後退。位置取りの差で7着に沈んでしまう。
「さらに12キロも増えてファンタジーSへ。ますます肉体面は充実してきた。ただ、普段はとても素直なのに、オン・オフが即座に切り替わり、馬場へいけば前向きすぎるくらい。いかになだめられるかがポイントと見ていたね。なんとか抑えが効いて、絶好の2番手。ゆっくり追い出すことができた。時計勝負にも対応し、最後までしっかり伸びている。将来に向け、大きく夢がふくらんだ」
直線で先頭に立つと、3馬身も差を広げ、悠々とゴールを駆け抜けた。クラシックの有力候補に踊り出る。しかし、阪神JF(17着)、フィリーズレビュー(7着)、桜花賞(9着)と意外な伸び悩み。折り合いの難しさに加え、切れよりもパワーに優れた潜在的な特徴が際立ってきた。
もともと適性を見込んでいたダートに条件を替え、端午Sを4馬身差の楽勝。その末脚(3ハロン36秒1)はレースの上がりを1秒5も凌ぐ圧倒的なものだった。ユニコーンSでもメンバー中で最速となるラスト34秒9を駆使して2着まで追い上げた。
このままヒットチャートを駆け上っていくかに思われた歌姫(馬名はバルバドス出身の人気シンガー、Rihannaより)だったが、出遅れがパターン化し、本来の懸命さも失われてしまう。4歳以降は連敗を重ね、翌年のファイナルS(12着)が最後のステージとなった。
繁殖としても大きな期待がかかる。いまのところサウンドアレグリア(現4勝)が代表格。続く産駒も栄光のゴールに向けて美声を響かせるに違いない。