サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

サウンドバリアー

【2010年 フィリーズレビュー】鋼の少女が演じた鮮やかなフィナーレ

 サウンドキアラ(阪神牝馬Sなど重賞を3勝、ヴィクトリアマイル2着)、サウンドレベッカ(2勝)、サウンドクレア(2勝)らを送り出し、繁殖としても名を高めたサウンドバリアー。真面目な努力家でありながら、意外性にも富んだ個性だった。稀有な才能が最大限に生かされたのが2010年フィリーズレビューである。

 馬任せに後方を追走。勝負どころでも前が壁になり、なかなか動けない。ところが、直線で外へ持ち出すと、一気の逆転劇が始まった。9番人気の低評価を跳ね返し、豪快な差し切り。タイム差なしに5頭が横並びとなるゴールではあったが、その瞬発力はひと際光るものだった。

 常に冷静沈着なことで知られる安達昭夫調教師も、レース後は驚きを隠そうとしなかった。
「前走のエルフィンS(9着)は、直線で行き場をなくす致命的な不利。スムーズなら弾けそうな感触があり、悲観はしていなかったですよ。それにしても、ステッキも使わずにあの脚。未勝利脱出に5戦もかかっただけに、晴れて桜花賞へ進めるなんて、とても予想できなかった」

 香港Cを含むターフのG1を4勝したうえ、ダートでもフェブラリーSや南部杯を制したアグネスデジタルが父。母スリーピングインシアトル(その父シアトルスルー)は未出走だが、祖母のレディーズシークレットがアメリカのG1を11勝した女傑であり、「鉄の女」と称された。同馬の芦毛も母系より受け継がれたものである。

「1歳で初対面したときからしっかりした馬体。目が素直そうで、愛らしかった。イメージどおりに成長しましたね。育成先のグランデファームで順調に乗り込まれ、2歳の9月に栗東へ。ときどきごねて動かなかったり、ダクで飛び跳ねたりする気の強さがあっても、普段はどっしり構えている。本当に扱いやすい馬でした。飼い食いが旺盛で、使い減りしないのにも感心させられましたよ」

 もともとゲートは速く、好位での競馬で芝1400mを2着、3着。ダート1200mではハナを切っているほど。転機となったのは、初勝利(3歳1月の京都、芝1600m)時に、後方からの戦法を試したことだった。

「行き切ると、それで満足してしまう。オーナーからも控えてほしいとのリクエストがあリ、ジョッキーに指示した結果です。ただ、最後方まで下げるとは思いませんでしたが。ようやく秘めていた勝負根性を引き出すことができたんです」

 桜花賞は16着に敗れたが、出走した18頭のうちで16頭が35秒を切る上がりをマークしたスローペース。絶望的なポジションに加え、かなりのコースロスもあった。

 NHKマイルC(13着)後は骨折や筋肉痛に泣かされ、長期のブランク。5歳1月になって戦列に復帰したものの、翌年の新春S(11着)まで9戦を消化しながら、結局、復活の勝利を挙げることはできなかった。

 フィリーズレビューでの一撃に、全エネルギーを使い果したかのような現役時代。競馬の新陳代謝は早く、怒涛の追い込みも、すでに昔の出来事だったように感じてしまう。それでも、産駒が勝利を重ねるたび、圧巻のパフォーマンスが生き生きと蘇えってくる。