サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
サウンドキアラ
【2020年 阪神牝馬ステークス】深い愛情に育まれた輝かしき才気
社台ファームで大切に育てられ、2歳9月に栗東へ移動したサウンドキアラ。セーブ気味の調整に終始していても、新馬戦(京都の芝1400m)から抜群の決め手を駆使し、2馬身差の快勝を収めた。当時の状況について、安達昭夫調教師はこう振り返る。
「いかにも細身でしたし、若い牝らしくデリケート。爪が低く、ぶつけやすい肢勢に注意する必要もありました。それに、大人しかった母と違い、お転婆で気性が勝っているんです。他馬を蹴りにいったり、油断すると引っかかってしまって。それでも、そんな激しさがレースでの爆発力につながっていました」
稀代のスーパーホースであり、スタリオン入りしてからも数々の新記録を打ち立てたディープインパクトが父。母サウンドバリアー(その父アグネスデジタル)も安達厩舎で走り、フィリーズレビューに優勝した。曽祖母のレディーズシークレットが「鉄の女」と呼ばれ、アメリカのG1を11勝した名牝。同馬の半妹にあたるサウンドレベッカ(2勝)、サウンドクレア(現1勝)もステーブルの後輩である。
「愛着が深い繁殖にトップサイアーが配されて誕生。素質を垣間見せながら、全姉のサウンドラブリーが未勝利に終わったぶんも、この仔に懸ける思いは強かったですね。バリヤーも末脚が自慢でしたが、ダートをこなせたパワフルな個性。ディープの血がうまくマッチしましたね。軽さやしなやかさが前面に出ていて、きれいなフォームで走れます」
慎重に脚をため、競馬を教えようと努めたこともあり、つわぶき賞(3着)、京都の芝1600m(4着)、春菜賞(4着)と、あと一歩の結果。ここで3か月のリフレッシュを挟んだ効果は大きかった。京都の芝1600mで2勝目をマーク。鋭く突き抜け、後続に2馬身半の差を広げる。
「春先はフケがきつく、不安定な体調。ようやく中身が詰まりつつありました。本来は軽い馬場が向くのに、前が残る重を克服できたあたりも成長の証。期待通りに操縦性を高め、続く小豆島特別(3着)では高速決着にきちんと対応しましたので、まだまだ上を目指せると自信を深めましたね」
ここで挫跖に見舞われるアクシデントがあり、6か月の沈黙。復帰後は同条件の2着を3走、3着が1回と惜敗を重ねたものの、六波羅特別を順当勝ちする。格上挑戦したヴィクトリアマイルも7着まで脚を伸ばした。
秋シーズンは長岡京Sより再始動。いきなり勝利を収めた。リゲルSもハナ+クビ差の3着まで追い込む。そして、京都金杯では好位から鮮やかに抜け出し、重賞のタイトルに手が届いた。
京都牝馬Sも危なげなく差し切りを決め、連勝を飾る。阪神牝馬Sでの強さも忘れられない。先行勢を見ながら追い出しを待ち、あっさりと馬群を割った。
「以前は輸送が苦手でしたので、引き続きテンションを上げないように注意を払ってきたなかでも、メンタルのコントロールが上手に。肉体面の充実も想像を超えるものがありましたよ。体重が460キロ程度で安定。レース後の回復が早くなり、馬減りに気を遣う必要がなくなりました。ぐんと調整が楽になり、稽古でも見違えるように動け、ワンランク上の仕上げで臨めるようになったんです」
アーモンドアイに敗れたとはいえ、ヴィクトリアマイルでも安定したレース運びが光り、しっかりと2着を確保。懸命に戦った反動が残っていたのか、スワンS(10着)やマイルCS(10着)は振るわなかったが、阪神Cで4着に巻き返した。
高松宮記念(6着)を経て、6歳時もヴィクトリアМ(11着)の舞台に立つ。スワンSを2着して確かな才能をアピールしたうえ、マイルCS(8着)、阪神C(5着)まで懸命に走り続けた。
優しく向き合うトレーナーの気持ちに応え、着々と進歩を遂げたキアラ(イタリア語の女性名であり、明るい、輝くなどの意を持つ)。母となっても、その名の通り、きらびやかな未来を切り拓いていくに違いない。