サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

サイタスリーレッド

【2017年 オーバルスプリント】満を持して開花した天性のスピード能力

 2018年に定年を迎えるまでに、ワンダーアキュート(JBCクラシック、帝王賞、かしわ記念)、サウンドスカイ(全日本2歳優駿)をはじめ、数々の個性派を育てた佐藤正雄調教師。サイタスリーレッドも非凡な才能を発揮した一頭であり、最後となる重賞制覇をもたらした孝行息子だった。

「目名共同トレーニングセンターで乗り始めた1歳時でも、ぎゅっと詰まったスタイル。しっかりしたトモをしていて、豊富なスピードを秘めていそうだった。吉澤ステーブルに移って順調にペースアップ。前向きな気性だけに、入厩後もスムーズに出走態勢が整った。もともと調教では楽々と好タイムをマークできたよ」
 と、馬づくりのベテランは若駒当時を振り返る。

 NHKマイルCをレコードタイムで制したダノンシャンティが父。産駒はターフランナーが多いが、母ユメノラッキー(その父ソルトレイク)は、BCジュヴェナイルなど米GⅠを2勝したアンブライドルズソングの従妹にあたり、ダートや力の要る洋芝で3勝を挙げた。

 2歳8月、小倉(芝1200mを8着)でデビュー。ハナを切ってハイラップを刻んだが、馬体を併せられて怯み、あっさり失速した。控える戦法に徹し、3走目の京都(芝1200m)で差し切りが決まる。昇級後も2着、3着、2着と連続して好走するなど、短距離のターフへの適性も示した。ところが、しっかり立て直しても成績が低迷。歯がゆい9連敗を喫する。

「好状態で送り出しても、実戦へいくとナーバスに。枠内で反抗的な態度を取り、スタートが課題となった。道中も冷静さを欠き、うまく折り合えなくて。血統面や硬めな手先から、どこかでダートを試そうと思っていた」

 4歳3月に阪神のダート1200mへ。出遅れても押して2番手をキープでき、ラストでもうひと伸び。同条件の1000万下では、高速馬場にも対応し、タイムを大幅に詰めた。陽春Sも危なげなく突破する。

「ここまで変わるなんてね。もっと早く方向転換すべきだったかもしれないけれど、一気に才能が花開いたのは、根気強く我慢を教え込んだ過去があってのこと。ダートなら気分良く走れるから、すべきことを素直に吸収してくれる。陽春Sでは砂を被って嫌がったのに、そんな心配も一走で払拭してくれた」

 楽な手応えで馬群を割り、栗東Sに快勝。ダートでは無傷の4連勝でオープン勝ちを果たしたうえ、過去最大となる2馬身差を付けた。

「1200mがベストと見ていたが、イメージ通りに一列下げて競馬ができ、1ハロンの距離延長も克服。レースの幅が広がったね。トップレベルを相手に経験を積んでいけば、まだまだ成長すると見ていたよ」

 クラスターCでは逃げの手に出て、3着に好走した。見違えるほどゲートが改善。オーバルスプリントでも小回りコースを意識し、果敢にハナを奪う。自らハイペースを演出しながら、勢いは衰えなかった。2馬身の決定的な差を保ったまま、栄光のゴールに飛び込む。

 以降は気持ちの部分で淡白さを増し、成績は激しく上下動したものの、兵庫ゴールドトロフィー(3着)、大和S(4着)で見せ場をつくる。佐藤師の引退後は池添兼雄厩舎に移り、10戦を消化。NST賞を快勝したうえ、カペラSに2着した。

 走るたびにぐんぐん強さを増し、鮮やかに花を咲かせたサイタスリーレッド。大井に移籍後も含め、以降は10連敗を重ねたものの、努力が詰まった戦績を眺めていると、トレーナーの穏やかな笑顔が目に浮かぶ。