サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
コパノリチャード
【2014年 阪急杯】真っすぐに闘志を燃やす強靭な王者
サンデーサイレンスの後継ながら、2年連続してJRA賞・最優秀短距離馬に選出されたダイワメジャー。スピード色が強い遺伝子であり、優秀な勝ち上がり率を誇るうえ、カレンブラックヒル(NHKマイルC)、メジャーエンブレム(阪神JF、NHKマイルC)、レーヌミノル(桜花賞)、アドマイヤマーズ(朝日杯FS、NHKマイルC、香港マイル)、レシステンシア(阪神JF)、セリフォス (マイルCS)、アスコリピチェーノ(阪神JF)をはじめ、多数のトップクラスを送り出しているが、コパノリチャードも父の名を高めた代表格である。
母ヒガシリンクス(その父トニービン)は未出走だが、同馬の半姉にあたるコパノオーシャンズもスプリント戦線で4勝。4代母シンティレートが英オークス馬という筋が通った血脈であり、大舞台向きの底力を秘めていた。
「小国ステーブルでの育成は順調に進んだけど、9月末の入厩当初はそう動きが目立たなかった。ただし、もともとゲートのセンスはいいし、遊ぶことを知らず、常に前向き。それでいて、調教でテンションが上がりすぎることもない。調整に苦労はなかったね。追い切るたび、どんどん進歩してくれた」
と、宮徹調教師は2歳当時を振り返る。
11月の京都(芝1400m)に初登場すると、あっさり逃げ切り勝ち。千両賞は2着に敗れたとはいえ、初戦よりコンマ7秒も速いラップで半マイルを通過する厳しい流れだった。白梅賞は押し出されてハナへ。ラスト3ハロンはすべて11秒台でまとめ、2着を5馬身も突き放してゴールする。
アーリントンCも連勝。順当に初のタイトルを手にした。スローペースに行きたがる仕草を見せながら、2着に1馬身半の決定的な差を付けた。皐月賞(13着)やNHKマイルC(8着)はオーバーペースが響いた結果だった。
秋緒戦のポートアイランドSは折り合いを欠き、16着まで後退したが、スワンSで一変する。すっと先手を奪えたうえ、なんとか抑えも利いた。並ばれるのを嫌い、コーナーで加速。一気に後続を突き放すと、セフティーリードを保ったまま、悠々とゴールを駆け抜けた。
「あり余るほどの速力があるとはいっても、決して早熟ではなく、完成度としてはまだまだなのに。相手関係というより、自分との闘い。リズム良く運べさえすれば、旺盛な闘志を発揮してくれる」
マイルCSでも4着に粘り、ポテンシャルをアピールした。スタートでリズムを崩した阪神C(10着)での苦い経験もあっさり跳ね除け、阪急杯を快勝する。絶好の1番枠からハナを奪い、2ハロン目には10秒7のハイラップを刻んだ。待機勢に脚を使わせ、直線でもうひと伸び。2着に4馬身も差を広げ、悠然とゴールに飛び込んだ。
「こんなタイプは大好き。小細工する必要がないし、能力を測りやすい。それにしても、強かったなぁ。この内容ならば、G1でも通用すると自信を深めたよ」
そして、ついに頂点を極める。高松宮記念ではすっと2番手に付け、ロスなくコーナーを回ったうえ、荒れたインを避けて追い出されると、後続を3馬身も突き放した。
「ジョッキー(ミルコ・デムーロ騎手)も追い切りに跨り、状態の良さには自信を持っていた。初の1200mでも、ダッシュに関しては上位。ペースも合うと見ていたんだ。パワーも兼備しているから、不良馬場は歓迎材料。ノメってもめげない精神力に感心させられたね」
だが、以降は筋肉痛に悩まされるなど、本調子を欠くことが多かった。なかなかスムーズなレース運びができない。阪神Cでハナ差の2着に反撃し、5歳時の高松宮記念も5着しながら、復活の勝利は挙げられなかった。
目立った活躍馬を送り出せず、2021年に種牡馬を引退。強靭な精神力で勝ち取った栄光を噛み締めながら、幸せに余生を過ごしてほしいと願っている。