サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

コディーノ

【2012年 札幌2歳ステークス】若きファンタジスタが放った華麗なシュート

 ノーザンファーム早来での育成当時から、クラシック候補と見込まれていたコディーノ。2歳7月、札幌競馬場へ移動し、芝1800mに初登場すると、楽々と新馬勝ちを飾った。出遅れたうえ、スローなペースで流れたなか、あっという間に2馬身半の差。ステッキを入れなくても、その末脚は圧倒的だった。

 父はキングカメハメハ。母父がサンデーサイレンスというトップサイアー同士の組み合わせ。母ハッピーパスは、京都牝馬Sなど5勝した名牝である。祖母ハッピートレイルズの産駒にはシンコウラブリイ(マイルCSなど重賞6勝)、タイキマーシャル(エプソムC)、サンタフェトレイル(キングストレイルの母)らがいて、繁栄している一族。同馬の全妹にあたるチェッキーノも、フローラSを制することとなる。サンデーサラブレッドクラブにて総額6000万円で募集。華麗なシュートを夢みて、イタリア代表のサッカー選手・ロベルト・バッジョの愛称(ヘアスタイルからの連想、イタリア語で弁髪との意味)と名付けられた。

 2戦目にして札幌2歳Sに優勝する。スタートが決まり、好位を追走できただけでなく、ラストの瞬発力も秀逸。2着とはコンマ3秒差の快勝だった。「完璧。なにも言うことはない」と藤沢和雄調教師は満面の笑顔。横山典弘ジョッキーも、こう非凡なセンスに賛辞を贈る。

「前に壁をつくって折り合わせ、急がせないように運ぼうと思っていた。初戦は道中で敏感な面を見せたし、内枠(3番)を引いたからね。でも、そんな心配は無用だった。むしろ押しても進んでいかないくらい。あとは追い出しのタイミングを待つだけ。まだまだ成長途上なのに、この切れ味は絶品といえる」

 東京スポーツ杯2歳Sでも、堂々の1番人気(単勝1・9倍)にふさわしいパフォーマンスを披露する。二の脚で4番手に付け、道中は引っ張り切りの手応え。狭いインをこじ開け、余力たっぷりに突き抜ける。タイムは1分46秒0のレコードだった。

「直線に向き、進路を探すのがたいへんだったけど、少しのスペースがあれば、入っていける脚がある。初めての競馬場だったので、強引に先頭へ立ちたくなかったしね。早めに輸送して、けさも朝乗りした甲斐があった。札幌2歳Sの後も、調教ではずっと脚をため、促したことなどなかったのに、見せムチのみで、すっと反応。どれだけ伸びるのか、わくわくしながら乗っていた」(横山典弘騎手)

 しかし、朝日杯FSは2着に惜敗。外へ持ち出したところで、早めに脚を使ってしまったのが敗因だった。弥生賞、皐月賞とも3着止まり。テンションを上げないよう、東京競馬場に滞在して最終仕上げを施したダービーも、不完全燃焼の9着に終わる。

 毎日王冠(7着)、天皇賞・秋(5着)、東京新聞杯(4着)、ダービー卿CT(5着)と、秋シーズン以降も崩れずに健闘したが、ここで疝痛を発症。開腹手術を受けたものの、長期の入院生活で体力を消耗してしまう。結局、安楽死の処置が取られた。

 青春期の輝きに反し、あまりに悲しい結末だった。それでも、若きファンタジスタが放ったミラクルシュートは、大くのファンの目に生き生きと焼き付いたままである。