サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
コスモネモシン
【2013年 新潟記念】人気薄で燃える気丈なレディー
母デュプレ(その父シングスピール)がイギリスで1勝したのみであり、HBAサマーセール(1歳)での購買価格は350万円にすぎなかったコスモネモシン。ただし、祖母の半兄にオイロパ賞などG1を3勝したクトゥブがいる底力に富んだ血脈である。
ゼンノロブロイのファーストクロップ。サンテミリオン(オークス)、マグニフィカ(ジャパンダートダービー)を筆頭に、トレイルブレイザー、ペルーサ、アニメイトバイオら、重賞ウイナーを量産した世代にあたる。
2歳9月の中山(芝1800mを8着)でデビュー。気が強く、騎乗者に反抗的な態度を示すのが難点だった反面、当初より体力は豊富だった。使われながら調子を上げ、2着、4着と堅実に歩む。12月の中山、芝1800mで初勝利。過酷な不良馬場を跳ね除け、インをあっさりと抜け出した。
マイルの決め手比べでは厳しいと見られ、フェアリーSは単勝67・2倍の低評価。しかし、2度目の騎乗となった石橋脩騎手は、密かに一発を狙っていた。好スタートを切ったが、中団に下げて行きたがるのをなだめる。5ハロン通過が56秒8のハイペース。展開は絶好だった。直線で旺盛な闘志を発揮。くるくる尻尾を回しながら、馬群を割って抜け出す。クビ差だけ前へ出て、ゴールに飛び込んだ。これがジョッキーにとっても、うれしい初のタイトルとなった。
フラワーCでも2着に食い下がり、確かな才能をアピール。クラシックの壁は厚く、桜花賞(9着)、オークス(15着)と不完全燃焼に終わったものの、紫苑Sを3着し、秋華賞(14着)へも駒を進めた。
4歳になってからも、中山牝馬S(3着)、福島牝馬S(2着)、クイーンS(2着)、札幌記念(4着)、愛知杯(3着)など、重賞戦線で健闘。だが、翌春の福島牝馬S(2着)を境に、本来の前向きな気持ちが途切れてしまう。大敗が目立つようになった。
ところが、6歳時の新潟記念で一変。中団のインで脚を温存すると、直線はロスなく内目をするすると進出した。逃げたエクスペディションに馬を併せ、長い追い比べ。それでも、駆使した上りはメンバー最速(3ハロン34秒2)だった。ラストでクビ差だけ競り落とし、念願の3勝目を手にする。単勝は65・3倍。再び波乱の主役となった。
「以前より乗り難しくなっていますので、位置取りは気にせず、気分良く走らせるよう、心がけました。馬場(やや重)、好枠(4番)、52キロの軽ハンデに恵まれたとはいえ、もともとポテンシャルは相当です。使われて味があるタフな個性、キャリアを重ねても、衰えなど感じませんよ」
と、会心の騎乗を見せた松岡正海騎手は胸を張った。
以降も堅実に賞金を稼ぐ。府中牝馬S(4着)や愛知杯(3着)で見せ場をつくり、33戦目となった京都牝馬S(15着)がラストランとなった。
ビッグレッドファームで繁殖入り。いまではずいぶん穏やかな表情となり、母親らしくなったという。産駒たちにも、あっと驚く大仕事を期待したい。