サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

コスモセンサー

【2010年 アーリントンカップ】まっすぐに闘志を燃やした青春の逃走劇

 スピードタイプの良績が突出している西園正都厩舎。これまで31勝している重賞のうち、01年阪神JF(タムロチェリー)、10年マイルCS(エーシンフォワード)、12年マイルCS(サダムパテック)、18年ヴィクトリアマイル(ジュールポレール)をはじめ、25勝がマイル以下で挙げたものだ。

 錚々たる僚馬の陰に隠れがちだったとはいえ、コスモセンサーの実力も確かだった。様々なカテゴリーに一流馬を送り出したキングカメハメハが父。母のケイアイバラード(その父リヴリア)はダートで4勝したが、産駒には芝のマイルで3勝したケイアイウンリュー(父タマモクロス)がいる。

 西園調教師は、こう幸運な出会いを振り返る。
「預託が決まったのは、2歳の春。育成中のコスモヴューファームで勧められて驚いた。セレクトセール(08年1歳、950万円にて落札)で見惚れた馬でね。他のオーナー用に競っていたんだ。もちろん、当初から期待は大きかったよ」

 7月初旬に入厩し、ゲート試験を1回でパス。1か月足らずで新潟の芝1600mに初登場する。時計3本のみという調整過程から、7番人気に過ぎなかったが、速力の違いであっさり押し切った。

 新潟2歳Sは集中力を欠いて13着。続くききょうSも4着止まりだったものの、かえで賞はレコードタイムで勝利を飾る。

「京王杯2歳S(5着)だって、きついペースを追いかけながら、馬群を割ってきそうなシーンがあったし、コンマ3秒しか負けていない。当初は怖がりだったが、精神面もだんだん大人になってきたね」

 しっかり力を蓄え、アーリントンCへ。トモの筋肉に張りを増し、プラス8キロの体重以上にたくましくなっていた。押してハナを奪うと、マイペースに持ち込む。直線で追い出されると後続を突き放し、1馬身半のリードを保ったままでゴール。危なげなく重賞制覇がかなった。

「誰も行かないから行ったまで。スローに流れるなか、理想的なラップを刻めたよ。ただし、後続が迫ったら、もう一度、伸びたあたりは成長した証。夏から使い詰めだったので、早めにリフレッシュさせたのが良かった」

 翌日の阪急杯(エーシンフォワード)で2日連続の重賞制覇を成し遂げ、この週の西園師は幸せを独り占め。しかも、担当厩務員も同一という快挙だった。

 ニュージーランドT(7着)、NHKマイルC(11着)厳しいペースに持ち味が生きず、失速を繰り返したうえ、ダートのユニコーンS(落馬して競走中止)、プロキオンS(16着)でも結果を残せなかったが、しっかり英気を養って臨んだ年明けのニューイヤーSを勝利。以降は11連敗を喫したものの、京王杯SC(4着)、パラダイス(3着)、キャピタルS(4着)などで見せ場をつくる。ファイナルS、ニューイヤーSと連勝し、またひと皮むけた。東京新聞杯(2着)、マイラーズC(3着)、そして、安田記念(3着)と、渋太く食い下がった。

 だが、京成杯AH(4着)以降は長期のスランプ。ニューイヤーS(5着)で反撃したものの、状態を崩して1年以上のブランクを経た。7歳時の都大路S(18着)がJRAでのラストラン。地方への移籍が決まった。
 安定味に欠ける反面、全力を出せたときのパフォーマンスは鮮烈だったコスモセンサー。結局、ひとつだけしかタイトルを獲得できなかったとはいえ、忘れられないフロントランナーである。