サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ゴールドクイーン

【2018年 葵ステークス】ホースマン人生を締めくくる輝かしき金メダル

 葵Sを堂々と逃げ切り、新設重賞の歴史に記念すべき名を刻んだゴールドクイーン。坂口正則調教師は、こう会心のパフォーマンスを振り返る。

「人気はなかった(単勝29・4倍)けれど、持ち前のスピードを行かせれば、十分にチャンスがあると見ていたよ。この馬にはハナへ行くかたちが合っていて、芝1200mもベストの条件。無理せず絶妙の平均ペースに持ち込めた。だいぶ我慢を覚え、流れに応じた折り合いが身に付きつつある。古馬相手の重賞へも楽しみが広がるね」

 父は米G1・ブルーグラスSを記録的な大差で逃げ切ったシニスターミニスター。インカンテーション、キングズガード、ヤマニンアンプリメ、テーオーケインズをはじめ、砂巧者を量産している。同馬が初となる芝の重賞ウイナー。母サザンギフト(その父タイキシャトル)もダートで1勝した。サファイヤSを2着した曽祖母クインモーニングに連なるファミリーだ。

「仕上げに手間取らないタイプ。2歳5月に入厩した当初から、坂路をすいすい駆け上がれたよ。性格も従順。とても乗りやすいんだ。ゲートの速さは天性のセンス。最大のセールスポイントになっている」

 阪神のダート1200mを新馬勝ち。楽な手応えで抜け出すと、後続を3馬身も突き放す。2戦目はフェニックス賞へ。芝でも好ダッシュを決めて先手を奪うと、ハイペースを押し切って1馬身半差の快勝を収めた。

「しばらくダートの適鞍は組まれていない。この血統背景だけに、半信半疑で試した舞台だった。ただし、線が細く、パワー不足に映ったし、手先は軽いからね。いざレースとなったら、即座に気持ちが切り替わり、ゴールまで一所懸命。感心させられるよ」

 ところが、右ヒザに軽度の剥離骨折を発症。7か月のブランクを経る。昇竜Sは10着に沈んだが、橘Sをクビ+クビ差の3着に粘り、改めて芝向きの性能を示した。

「大きく体重を減らして再スタート。飼い葉を食べても、実にならない繊細さが残っていたね。それでも、一戦ごとプラスで推移しているように、順調に体質が強化。まだまだ成長途上にあり、いい筋肉が備わるのはこれからだと感じていたよ。私の定年(19年2月に引退)が迫っていた時期に、もっとがんばれと励まされている気分だったなぁ」

 ホースマン人生の集大成となるタイミングで巡り合った逸材に、トレーナーは優しい視線を送っていた。百戦錬磨の手腕に応え、ゴールドクイーンも輝きを増していく。バーデンバーデンCを2着。北九州記念(16着)から4連敗を喫したものの、ギャラクシーSで復活の勝利を挙げた。

 坂口智康厩舎に移籍後も、早速、かきつばた記念を逃げ切り勝ち。スパーキングレディーC(8着)を経て、ながつきSは5馬身の差を付ける快勝。JBCレディスクラシックでもハナを奪って2着に食い下がった。カペラSは5着だったが、ドバイゴールデンシャヒーンに選出される。ところが、レースが中止となり、無念の帰国。結局、5歳シーズンは未勝利だった。

 以降は地方・笠松に移籍し、3戦を消化した後に繁殖入り。非凡なスピードを受け継いだ優駿の登場を楽しみに待っている。