サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アドマイヤオーラ

【2007年 弥生賞】芽吹きの季節に放った輝かしきオーラ

 ウオッカ(ジャパンC、ダービーなどG1を6勝)とダイワスカーレット(有馬記念、桜花賞などG1を4勝)の2強が世代を牽引した2004年生まれにあって、歴史的な名牝のどちらにも先着を果たした唯一の牡馬がアドマイヤオーラだった。度重なる故障に泣きながらも、良血ならではのオーラを放った天才肌である。

 内国産として51年ぶりとなるリーディングサイアーを獲得し、一時代を築いたアグネスタキオンの産駒。母ビワハイジ(その父カーリアン、重賞を3勝)は、阪神3歳牝馬S(当時)でG1を制覇し、JRA賞最優秀2歳牝馬に輝いた。日本を代表する繁殖であり、同馬の半兄にアドマイヤジャパン(京成杯、菊花賞2着)、妹弟にもブエナビスタ(牝馬クラシック2冠、天皇賞・秋、ジャパンCなどG1を6勝)、トーセンレーヴ(エプソムC)、ジョワドヴィーヴル(阪神ジュベナイルF)、サングレアル(フローラS)らがいる。

 この母系らしく柔軟性には欠くものの、強靭な筋力の持ち主。厳しさを増すトレーニングも難なく乗り越え、2歳11月の京都、芝1600mで新馬勝ちを飾る。中京2歳S(半馬身差の2着)で待ち構えていたのが、同じ父を持つダイワスカーレットだった。早め先頭から押し切ったライバルの強さが光った一戦ながら、中団のインで我慢が利き、繰り出した上りは勝ち馬をコンマ2秒凌ぐ33秒5。3着以下は5馬身も離された。

 3歳の緒戦に選ばれたのがシンザン記念。断然人気に推されたダイワスカーレットの背後で進出のタイミングを図り、レースのラスト3ハロンを1秒6も凌ぐ、33秒3の圧倒的な決め脚を繰り出す。本命馬に1馬身半の差を広げ、早くも初のタイトルを手にした。

 単勝1・7倍の支持を集めた弥生賞。中団待機から直線であっさりと抜け出す。ゴール直前でココナッツパンチにクビ差まで迫られたものの、手応えには余裕があり、危なげのないパフォーマンスといえた。

「気持ちが優しく、自分からムキになって走っていく感じがない。他の馬と一緒に走るのを好むタイプだと思う。こちらがしたいことをスムーズに理解してくれた。改めてトップレベルの能力を実感できたうえ、ますます馬が良くなっている」
 と、武豊騎手は満足そうに笑みを浮かべた。

 だが、中心視された皐月賞は、後方の位置取りが響き、4着に敗退。ダービーでも懸命に脚を伸ばしたが、ウオッカの3着に終わる。レース後、左後肢の骨折が判明し、6か月半の沈黙を守った。

 鳴尾記念(3着)、京都金杯(2着)と歩んで調子を上げ、京都記念ではウオッカ(6着)らを撃破。久々に持ち前の瞬発力を発揮した。ところが、ドバイデューティーフリー(9着)への遠征後は勢いが衰えてしまう。宝塚記念(14着)で右ヒザを骨折。馬場入場後に歩様が乱れ、5歳時の京都記念は競走除外となった。1年3か月の休養を経ても輝きを取り戻せず、新潟記念(17着)を最後に種牡馬入りすることとなった。

 肩甲骨を骨折するアクシデントに見舞われ、突然、この世を去ったアドマイヤオーラ。決して繁殖に恵まれたわけではないが、クロスクリーガー(兵庫CS、レパードS)、ノボバカラ(かきつばた記念、プロキオンS、カペラS)、アルクトス(プロキオンS)など、残された産駒たちが活躍しているだけに、早逝が残念でならない。