サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ゴールスキー

【2014年 根岸ステークス】重厚なダートで覚醒した魂の舞踏

  生まれ落ちた当初より大きな期待をかけられ、社台サラブレッドクラブにて総額8000万円で募集されたゴールスキー。その兄姉にはゴールドアリュール(フェブラリーSなどG1を4勝)、ラバヤデール (3勝、 ソロルの母)、オリエントチャーム(4勝、マーメイドSを3着、ペルシアンナイトの母)、ニルヴァーナ(6勝)らがいる。母のニキーヤ(その父ヌレイエフ、バレエ・ラバヤデールの主役名)から連想され、馬名は有名なバレエの振付師より採られた。配された父は、アンライバルド(皐月賞)、ロジユニヴァース(ダービー)、ヴィクトワールピサ(皐月賞、有馬記念、ドバイワールドC)を輩出したネオユニヴァース。ノーザンファーム空港で乗り進められると、全身を伸びやかに使った動きが評判となり、クラシック候補と目されるようになった。

 2歳9月、池江泰郎厩舎に入厩。ところが、デビュー戦へたどり着くまでに試練があった。ローズキングダムが勝ち、2着にヴィクトワールピサが続いた京都の新馬に臨む予定だったが、前日の調教でパニックとなり、転倒して放馬。鼻出血を発症したうえ、両前や飛節などに外傷を負ってしまう。出走を取り消すこととなった。

「もともと柔らかい背中は超一流。精神面がひと皮むければ、すごい馬になる予感がしたね。一番の悩みは、勝手にテンションを上げてしまって、レース以前に消耗してしまうことだった」
 と、当時に調教を手がけた池江敏行調教助手は振り返る。

 控えめな調整で臨んだ12月の阪神(芝1800m)を勝利。気性の幼さを出して若駒Sは6着だった。大切な時期に左前脚に軽い裂蹄を起こし、ブランクを経る。その後も3連敗を喫し、なかなかリズムに乗れなかった。

「輸送したら一気に体を減らしてしまうし、いざというときにムキになり、折り合いが付かない。そんななかでも、調教でt〝スリーリング〟(矯正ハミの一種で銜環の上下に頬革用の環と手綱用の環が付いたもの)を使うようになった効果もあって、頭を上げずにふわっと走れるようになってきたんだ」(池江助手)

 7月の阪神(芝1600m)で待望となる2勝目をマークする。続く豊栄特別は4馬身の快勝。翌週の関屋記念をコンマ8秒も上回る優秀な勝ちタイムだった。ひと息入れ、ぐんとボリュームアップ。清水Sもあっさり突破し、マイルCSに臨むと、クビ+ハナ差の3着に健闘する。

 阪神Cは5着。池江泰寿厩舎に移籍後も東京新聞杯を3着するなど、重賞制覇は目前に思われたが、4歳秋に西宮Sを勝って以降、成績は激しく上下動する。パワーを増したぶん、実戦でのコントロールが利きにくくなり、脚のつかいどころが噛み合わない。結局、6歳春まで15連敗を喫した。

 しかし、ダートへ路線を替え、阿蘇S、ペルセウスSに連勝。武蔵野Sも4着に食い下がり、再び輝きを取り戻す。そして、根岸Sに挑み、待ちに待ったタイトル奪取がかなった。後方でスムーズに脚をためられ、本来の豪快な爆発力が炸裂。熾烈な2着争いを尻目に、悠々と差し切りを決める。初騎乗となったフランシス・ベリー騎手も、破格のポテンシャルを感じ取っていた。

「レース前にトレーナーより、休み明けだから次につながる競馬をしてほしいとの話があった。リズムを重視して、末脚を生かすイメージで乗ったんだ。スタートが良く、勝つのにふさわしい位置を取れたし、直線は追い出しを待つ余裕があったよ。この条件はぴったりだけど、もっと状態が良くなるはず。きょうのようにリラックスして走れれば、G1でもやれると馬だね」

 だが、依然として爪に弱点も抱えていた。芝スタートのフェブラリーS(10着)は加速が付かず、不完全燃焼。かしわ記念(4着)、さきたま杯(4着)、翌年の根岸S(4着)なども善戦止まりだった。同年秋には地方へ移籍したものの、1戦のみで引退した。

 種牡馬入りしたものの、2024年のシーズン中に心不全を起こして天国へ旅立ったゴールスキー。魂のこもったパワフルな舞踏を思い起こしながら、冥福を祈りたい。