サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
コーリンベリー
【2015年 かきつばた記念】完熟手前でも芳しい果実のパッション
体調不良により、2015年のシーズン途中でトレーナーを退いた柴田政見調教師。最後に手掛けた重賞ウイナーとなったのがコーリンベリーだった。
「当歳で見たときも、いかにも父似のまとまった好馬体。この母系らしく、ダートでのコンスタントな走りをイメージしていましたよ。とても素直で、扱いやすい性格も長所です。武田ステーブルでの乗り込みは順調に進み、2歳の5月には入厩できました」
と、馬づくりのベテランは若駒当時を振り返る。
ラブミーチャン(全日本2歳優駿)、ナムラタイタン(武蔵野S)をはじめ、砂戦線に多数の活躍馬を送るサウスヴィグラスの産駒。母コーリンラヴィアン(その父ミシックトライブ)は地方・名古屋で11勝したうえ、柴田師のもとに移ってJRA1勝。同馬の半兄にあたるコーリンギデオンも、短めのダートで4勝を挙げた。
8月の小倉、芝1200mでデビュー。ところが、追走に苦労し、見せ場なく11着に終わった。
「当週に芝のレースしか組まれていませんでしたので、まずは実戦を経験させ、次につなげたかった。仕上がったタイミングでの出走ではありましたが、まだまだ体質が若かったですね。レース後は両前のソエを痛がるようになり、休養を余儀なくされました」
この間にぐんと成長。12月の帰厩後はしっかり攻められるようになった。単勝140・2倍の低評価を跳ね返し、1月の京都、ダート1200mを鮮やかに逃げ切る。
「正直、驚きました。あんなスピードを秘めているなんて。当時も調教の動き自体はそう目立たなかったですから。持ち前の真面目さが生き、非凡なレースセンスを発揮するようになったんです」
続く500万下の同条件でも果敢にハナを切ると、厳しい流れを克服して勝利。1秒以上もタイムを詰める。オープンの壁もなく、昇竜Sは2馬身半差の完勝だった。
「一戦ごとに反応が上昇。それでも、まさか、まさかの3連勝です。1ハロンの距離や直線の坂に不安を感じていたのに、ラストまで脚をためられ、あっさり突き放してしまった。底知れない可能性を感じ始めましたね。クラシックは夢。思い切って桜花賞(18着)への挑戦を決めましたが、血統的にも適条件とはいえません。厳しいレースが堪えたりせず、以降も堅実にがんばってくれましたよ」
端午S、ユニコーンSと連続の2着。早くも重賞制覇が視野に入ってきた。プロキオンS(9着)を経て休養を挟み、JBCレディスクラシック(9着)にチャレンジ。ファイナルSでは鮮やかな逃走が決まった。
フェブラリーS(10着)は痛恨の出遅れ。しかし、控える戦法を試したコーラルSを勝ち、レース運びに幅を増した。そして、かきつばた記念では待望のタイトル奪取がかなう、無理なく先手を奪い、後続に影を踏ませなかった。
「キャリアを積み、精神的にたくましくなってきたうえ、いい筋肉が備わり、ぐんとボリュームアップ。まだまだ上を目指せると見ていましたね」
プロキオンS(2着)に続き、東京盃(3着)もあと一歩の結果。これが柴田師の管理下で走った最後の一戦となる。美浦へ転厩して臨んだJBCスプリントを堂々と押し切り、ついにG1ウイナーに上り詰めた。
距離延長が堪え、チャンピオンズC(13着)やフェブラリーS(15着)では失速したものの、5歳時にも東京スプリントに優勝。その後も東京盃(2着)、JBCスプリント(3着)、カペラS(3着)などで確かな実力を示した。
6歳シーズンは未勝利に終わり、大井に移籍後も2戦しか消化できなかったとはいえ、ベリー(小果実)との名に反して、大きく実を結んだコーリンベリー。繁殖となっても非凡なスピードを次世代につなげ、ファミリーを豊熟させてほしい。