サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ケイティラブ

【2010年 アイビスサマーダッシュ】ホースマンの礎となった忘れえぬストレートコース

 体質の弱さからデビューが遅れながら、3歳6月に阪神(ダート1200mを4着)に初登場すると、楽々とハナを切る速力を示したケイティラブ。小倉のダート1000mは3馬身差の快勝だった。

 父は堅実な勝ち上がりを誇ったスキャン。母ウイニングリバー(その父ムーンマッドネス、地方4勝)の弟妹にビーマイナカヤマ(ガーネットS2回など重賞8勝)、マイネルフォーグ(京王杯2歳S2着、ニュージーランドT2着)、ケイティローレル(ケイティブレイブの母)がいる優秀な一族であり、同馬の半兄にはマイネルブルック(きさらぎ賞)がいる。

 器用に緩急が利かない一本気な性格だけに、昇級後は4連敗。ただし、初の芝となった4歳5月の新潟では、名物の直線コースを一気に逃げ切る。3戦続けて不発に終わったものの、翌春も新潟の芝1000mに照準を合わせ、みごとに3勝目をマーク。続く稲妻特別を連勝で突破した。

 主戦の野元昭嘉騎手に替わり、初めて手綱を取った西田雄一郎騎手(現調教師)は「この条件であっても、ハナを切って押し切るのは至難の業。〝直千〟がぴったりです」と笑みを浮かべた。

 準オープンの壁は厚く、ラストでの失速を繰り返したとはいえ、6歳時も得意のコース(駿風S)で3着に巻き返す。コーナーがあるテレビユー福島賞もハイペースを粘って3着に食い下がった。そして、アイビスサマーダッシュへのチャレンジを決断する。

 適性は確かでも、格上となる重賞の常連メンバーが相手。単勝13・0倍の8番人気に甘んじた。それでも臆することなく、二度目の騎乗となった西田騎手は出ムチを入れて先手を主張。2ハロン目が9秒9、さらに10秒3、10秒1と究極のラップを重ねた。後続が懸命に追いすがっても、なかなか差は縮まらない。さすがにラストで12秒0に失速しても、コンマ1秒のアドバンテージを保ったまま、栄光のゴールに飛び込んだ。

「1年ぶりの騎乗でも、この舞台なら通用するって、自信を深めていたんです。いい馬に、いい状態のときに乗せてもらい、感謝するしかないですね。きょうはゲートでも落ち着きがありました。テンのダッシュを生かし、ゴールまで懸命に力を尽くしてくれましたよ。時計を詰めているあたりは、ここにきての成長を物語るもの。自分にとっては、忘れかけていた重賞の味です。ずっと先頭でしたので、短いはずの距離がとてつもなく長く感じました。これを励みに、もっとがんばりたい。地味で影が薄く、髪も薄いジョッキーですが、応援してください」

 と、周囲を爆笑の渦に巻き込んだ西田騎手。これが14年ぶりなる重賞のタイトルではあったが、「直千マイスター」と呼ばれるようになり、ラインミーティア(2017年)でも同レースを制覇することととなる。

 一方のケイティラブは、北九州記念(13着)、セントウルS(14着)とキャリアを重ねて繁殖入り。JRAでの産駒の勝利は、いまのころマイネルエメによる1勝のみだが、まだまだ母としても可能性を秘めている。まっすぐなスピードを受け継いだ逸材の登場を待ちたい。