サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ケイアイガーベラ
【2010年 プロキオンステークス】前向きにファイトする気高き大輪
赤いガーベラの「常に前進」という花言葉にふさわしく、懸命にゴールへと突き進んだケイアイガーベラ。母アンナステルツ(その父ダンジグ)はバウンダリー(種牡馬)の全妹であり、アメリカの2冠馬、スマーティジョーンズが配された魅力的な血筋の持ち込み馬である。
2歳11月、京都のダート1400mでデビューすると、5馬身差の圧勝を収める。ゆっくり間隔を開けて2月の同条件に臨み、あっさり500万クラスも突破した。
若駒当時の同馬について、持ち乗りで手がけた佐々木剛調教助手はこう振り返る。
「普段はおっとりしていて、本当に従順。なんとも気品にあふれています。それでも、オンとオフしかなく、真面目すぎる性格なんですよ。ソエに配慮して慎重に仕上げながら、素質だけで連勝。ただし、しばらく適鞍がなく、未完成な段階なのに長い距離(端午Sを10着)や芝(あじさいSは6着)を試しましたので、馬は戸惑っていましたね。皆生特別(7着)時も元気がなくて。5か月間のリフレッシュ効果があり、またぐんと伸びてくれました」
ソフトな当たりが評価され、佐々木さんはデリケートな牝を任されることが多い。同馬のウイークポイントは飼い食いが細いことなのだが、回数を分けて与えたり、好物を中心に配合を工夫したりと、細やかな気配りを欠かさなかった。熱心な取り組みが実を結び、11月の京都(ダート1400m)を楽々と抜け出す。すっかり勢いに乗り、山科S、ポラリスSと一気の3連勝を飾った。
「あのころになると、気持ちに余裕が出てきました。いざ走るとなれば力を抜くことを知らなかったのに、秋山(真一郎騎手)さんも『落ち着きを増したのがいい。だいぶ乗りやすくなった』と話していましたね。肉体的にも大人に。すぐに尖ってしまったトモが丸みを帯び、硬くなりがちだった体も柔らかくなった。レースの反動に気を遣わなくなりましたよ」
マリーンC(4着)後に休養を挟み、プロキオンSで重賞を初制覇。内容も目を見張るものだった。レコードタイムをマークする逃走。後にJBCスプリントに勝つサマーウインドを4馬身も置き去りにした。
これが初騎乗となった岩田康誠騎手も、性能を絶賛した。
「ふっくらした馬体に戻り、調子が良すぎるくらい。自信を持って乗れたし、無理なくハナを切れた。直線も余裕だっぷり。ここで依頼があったことに感謝するしかないね」
秋緒戦のエニフSも5馬身差のワンサイド勝ち。武蔵野S(15着)での挫折も簡単に跳ね除け、ギャラクシーSはダノンカモンに2馬身半の差を付けている。
「競馬場で1泊すると、ずっと走ることしか頭になく、飼い葉をまったく口にしない。だから、船橋や東京ではなかなか結果が出なかった」(佐々木助手)
そこで、根岸Sに出走した際は、早めに美浦トレセンに移動して調整。しかも、自厩舎の環境に近づけようと、3頭の帯同馬を伴って滞在した。だが、過去の苦しい思いが蘇るのか、どうしても左回りではリズム良く走れない。当日輸送にもかかわらず、8着に沈んだ。
関西圏に専念し、ポラリスS(ハナ+クビ差の3着)、プロキオンS(3着)、エニフS(2着)と盛り返した。力の衰えは感じられなかったが、繁殖としての価値を見込まれているだけに、5歳いっぱいで引退させることに。ダートの短距離重賞といえば、中山のカペラSしか残されていない。
鬼門の関東遠征を克服すべく、中間は2か月間も坂路で丹念にタイムをマークし、渾身の仕上げが施された。陣営の願いが馬に通じ、到着後は激しくイレ込むこともなかった。楽々と抜け出して2馬身半差。持ち味をフルに発揮し、ハッピーエンドで競走生活を締めくくった。
繁殖成績は優秀であり、初仔のフィアスインパクトは海外へ輸出され、オーストラリアでG3・サマーCに優勝したのを皮切りに、トゥーラックハンデキャップ、カンタラS、マカイビーディーヴァSと豪G1を3勝。現地で種牡馬入りした。ひとつ下のケイアイノーテックもNHKマイルCを制した。まだまだ兄たちに続く逸材が登場するに違いない。