サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
クロコスミア
【2017年 府中牝馬ステークス】たくさんの喜びを運ぶ可憐な名花
あと一歩でG1には手が届かなったものの、たびたび主役を脅かすパフォーマンスを披露したクロコスミア。全33戦(5勝)を懸命に走り抜け、クロコスミア(アヤメ科の花)の花言葉にあるように「楽しい思い出」をたくさん残している。
ドバイシーマクラシックや香港ヴァーズを制した底力を伝え、種牡馬として大成功したステイゴールドが父。母デヴェロッペ(その父ボストンハーバー)は2勝馬ながら、菜の花賞でオープン勝ちした。祖母の半兄にディクタット(ヘイドックスプリントC、モーリスドゲースト賞、安田記念2着)が名を連ねるファミリーだ。
「初めて見た1歳時より小柄だったけれど、もともとバランスがいい。父譲りの柔軟性やバネがあり、走らせると大きく見えるんだ」
と、西浦勝一調教師は幸運な出会いを振り返る。
ディアレストクラブでの乗り込みを経て、2歳5月に栗東へ。函館競馬場に移って仕上げられ、芝1200mの新馬でデビューする。コーナーでふくれるロスが響いて5着。続く未勝利も3着だった。
「調教で動けていても、スプリントは忙しかった。それで1800mを試したところ、あっさり差し切り。想像以上に変わってくれたよ」
コスモス賞は4着だったが、札幌2歳Sを懸命に追い上げ、3着に食い込む。アルテミスSも3着に健闘。赤松賞を順当に勝ち上がった。ところが、阪神JF(8着)以降、チューリップ賞(7着)、フローラS(14着)と調子を崩し、クラシックへの参戦はかなわなかった。
「懸命な気持ちが空回り。ここで追い詰めては先がないと思い、5か月間、たっぷり英気を養わせた。その効果があり、すっかり軌道に乗ってきた」
ローズSは2着だったとはいえ、世代でトップの実力を誇ったシンハライトとわずかハナ差の接戦を演じた。逃げの手を貫き、秋華賞は6着。オーバーペースが響き、ターコイズS(14着)で失速したが、以降も順調に成長を遂げる。
久々となった阪神牝馬Sを4着。福島牝馬S(7着)後に降級して、北斗特別をレコード勝ち。クイーンSに4着したうえ、ワールドオールスタージョッキーズ第2戦は3馬身差の楽勝だった。
府中牝馬Sでもハナを主張。中盤でスローに落とし、しっかりと息を入れる。4コーナーから早めにスパート。ヴイブロスの強襲をクビ差だけ凌ぎ切り、ついに重賞のタイトルを奪取した。
「この父らしく渋った馬場(当日はやや重)が得意なのは、ローズSでも示した通り。以前より背が伸び、ちょっと大人っぽくなったね。この仔の場合、そのちょっとが貴重だった。繊細であっても、普段からカリカリしないし、ようやく飼い食いが安定して、デビュー当時より20キロ程度、ボリュームアップ。調教を加減せず、併せ馬でしっかりとできるようになったよ。精神面に余裕が出て、レースでもコントロールが利きやすくなっている。リズム良く走れれば、2、3番手でも力を出せる手応えがあった。内に秘めたきつい部分も、勝負根性として生きてきたしね」
2番手から直線で先頭に立ち、エリザベス女王杯(2着)は勝ったモズカッチャンとクビ差の大接戦。展開に左右されがちな傾向が解消しなかったとはいえ、京都記念(8着)、ドバイターフ(7着)、札幌記念(8着)と牡馬と渡り合い、ますます充実していく。
5歳時も府中牝馬S(5着)をステップにエリザベス女王杯(2着)へ。リスグラシューの決め手にクビ差、屈したが、3着とは3馬身差だった。香港ヴァーズ(10着)、中山牝馬S(6着)、阪神牝馬S(5着)を経て、ヴィクトリアマイルを3着。前年と同様、札幌記念(7着)、府中牝馬S(5着)と歩み、エリザベス女王杯は3年連続の2着を堅守する。
有馬記念(16着)がラストラン。生まれ故郷のディアレストクラブで繁殖入りした。産駒たちも優秀な身体能力や旺盛な闘争心を受け継ぎ、きっとターフに鮮やかな色彩を放つことだろう。