サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
グリム
【2018年 レパードステークス】純真なシンデレラボーイが紡ぐ胸がときめく物語
2歳12月、阪神の芝1200mでデビューし、いきなり3着に逃げ粘ったグリム。年明けにダート(京都・1400m)を試すと、あっさり抜け出した。
天皇賞・秋、ジャパンC、有馬記念と王道路線を3連勝したゼンノロブロイの産駒。マグニフィカ(ジャパンダートダービー)、ナムラビクター(アンタレスS)など、砂巧者も輩出している。母ブランシュネージュは、芝1200mで4勝をマーク。同馬の半兄にあたるヴァイサーリッター(4勝)もスプリンターだった。
「サクラバクシンオーの肌だけに、スピード色も濃いのですが、父の遺伝子を受け継ぎ、長めなシルエット。1歳で出会ったころでも、ダート向きのパワーを秘めていそうでしたが、大型ですので、いかにも身のこなしが緩かったですよ。決して早熟タイプではありません。飛節が腫れたりするアクシデントもあり、名張のヒイラギステーブルでじっくり乗り進められました。ただし、とても素直な性格。調整はしやすいんです。秋が深まって入厩した直後から鞍上の意のまま、反応良く動けましたね。ゲートのセンスも優秀。早速、すっと前へ取り付けるアドバンテージを生かせました」
と、野中賢二調教師は若駒当時を振り返る。
包まれて追い出しが遅れ、はこべら賞は7着に終わったが、2番手より力強く伸び、阪神のダート1400mを快勝する。強力メンバーにマークされながら、青竜Sを競り勝った。
「あの当時もレースの反動が大きく、態勢を整え直すのに時間がかかりました。追い足りないかと思われたのに、あっという間にオープンまで出世。初のマイルも克服でき、これは底知れないと思わせましたよ。ユニコーンS(9着)は期待に反したとはいえ、直線で前がふさがり、完全に脚を余している。まだ全身を使い切れず、成長を待っている段階でしたしね」
みごとにリベンジを果たしたのがレパードS。スタートで躓きかけたものの、スピードの違いでハナに立つ。いったん4コーナーで後続を引き付け、手応え十分にスパート。ヒラボクラターシュの強襲を渋太く退け、重賞の初制覇を飾った。
「順調に基礎固めが進み、一戦ごと負荷を強化。体力が備われば、1800m以上でも走れると見ていました。もまれ弱い不器用さも残っていて、急なペースの変動への対応は苦手でしたが、だんだんレースを覚えてきた。後ろから来られるとスイッチが入り、懸命に闘争心を燃やします。持ち味の発揮し方をつかめ、価値ある勝利となりましたよ」
序章にあっても、わくわくさせられるグリムの物語。才能にあふれた真面目なキャラクターは、トレーナーが長い視野で描く未来図に従い、シンデレラボーイへと変貌した。続く白山大賞典は5馬身差の圧勝を収める。
浦和記念(2着)、名古屋グランプリ(3着)と健闘したうえ、名古屋大賞典を順当に勝利。アンタレスS(2着)を経て、マーキュリーCでもタイトルを奪取する。忙しい流れに戸惑い、エルムSは7着だったが、勢いは衰えず、白山大賞典の連覇を達成した。
ところが、以降は態勢が整わず、1年5か月ものブランク。黒船賞(4着)、アンタレスS(12着)と歩んだところで、JRAでの競走生活にピリオドを打つ。
さらに1年2か月間、沈黙を守っていたが、下級条件から出発できる高知競馬より再スタートを切り、圧倒的な内容で3連勝を飾った。いまでも純真に紡いだ物語の余韻は熱を帯びたままで残っている。