サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
クイーンズリング
【2016年 府中牝馬ステークス】まばゆい光輪に照らされた純真なクイーン
着々と勝ち鞍を伸ばし、卓越した手腕に定評がある吉村圭司厩舎にあって、躍進の礎となったのがクイーンズリング。初のタイトルをもたらし、さらにG1制覇の喜びを運んだ。トレーナーは、こう幸せな巡り会いを振り返る。
「初めて見た1歳時も、とても軽そうなイメージ。きれいなラインをしていましたね。性格も素直です」
馬名はマンハッタンの隣にあるニューヨーク市の区名と、イルカがつくる幸運を呼ぶ水の輪『アクアリング』の一部を組み合わせたもの。2009年にチャンピオンサイアーとなり、以降も高いレベルで安定度を保ったマンハッタンカフェの産駒である。母アクアリング(その父はカルティエ賞最優秀短距離馬に輝いたアナバー、JRAで1勝)の半姉に仏1000ギニーを勝ったトレストレラ。馬主を対象としたLEX・PROにラインナップ(募集総額は600万円)された。
「遅生まれ(5月25日生まれ)でしたし、社台ファームの育成はあせらずに進行。2歳10月に入厩し、ゲート試験をパスさせたのですが、まだ自ら動ける段階ではなかったんです。ところが、想像以上の成長力を秘めていましたよ。グリーンウッド・トレーニングでの放牧をきっかけにぐんと充実。帰厩後は楽々と好タイムが出ましたし、3本追っただけでデビューできました」
12月の中山(芝1800m)で新馬勝ち。スローの2番手で折り合い、ラストも11秒2、11秒4と鋭く反応した。菜の花賞もあっさり突破。2馬身差の完勝を収める。
「あれでも余力たっぷりで、遊んでいたくらい。性能の高さに自信を深めることができました。レースセンスも上々。大外枠を引きながら、すっと流れに乗れたうえ、我慢も利いて追い出しを待てましたからね。関東へ遠征しても、飼い葉をきちんと食べてくれるのが心強い。ほんと手がかかりません」
フィリーズレビューも大外から突き抜け、無傷の3連勝を飾った。一躍、クラシックの有力候補に踊り出る。
「これまでの走りから、1400mにも対応できると見ての参戦。阪神コースを経験させておきたかったですしね。20キロの馬体減は予想外でしたが、当日輸送が初めて。牝らしからぬ度胸があり、難なく重賞の壁も乗り越えてくれた。夢はふくらむ一方でした」
桜花賞はスローペースに泣いて4着。オークスも接触する不利を受け、9着に終わった。ローズS(5着)をステップに秋華賞へと駒を進め、わずかクビ差の2着に健闘。スムーズさを欠いたエリザベス女王杯は8着だったとはいえ、4歳シーズンも右肩上がりに進歩を遂げていく。
堂々の1番人気に応え、京都牝馬Sで2つ目のタイトルを奪取した。クビ差の辛勝ではあったが、直線で狭くなる不利や重馬場を克服。だが、ヴィクトリアマイルはスムーズさを欠いて8着に終わる。上半期半期は、米子S(2着)のみに止め、秋の快進撃につなげた。
スタートが決まり、楽な手応えでも好位追走がかなった府中牝馬S。満を持して追い出されると、後続に1馬身半の差を広げた。ミルコ・デムーロは、明らかな進歩を感じ取っていた。
「久々でも、春とは状態が違う。精神的に大人になり、ハートが強くなっているよ。いいかたちで向かえるG1でも、きっとチャンスがある」
その予言通りに。エリザベス女王杯では馬群を縫って鋭く伸び、堂々とクイーンの座に君臨する。香港C(9着)以降は、阪神牝馬S(15着)、ヴィクトリアマイル(6着)、府中牝馬S(4着)、エリザベス女王杯(7着)と、勝利から遠ざかったが、ラストランとなった有馬記念では同馬らしい伸び脚を発揮。2着に食い下がり、改めて非凡な能力を証明した。
繁殖としても魅力だっぷり。初仔のシャザーン(2勝)はセントライト記念を3着した。この先も誰からも愛される素直さと、抜群の切れを兼備した優駿を送り出すに違いない。